黒鷲の旅団
1日目(1)戦場跡の子供達
「うひっ! 生きてる!」
気が付くと俺は、荒野に倒れていた。
俺が身体を起こすなり、子供。
驚いて逃げて行く子供が数人。
周囲には、おびただしい数の兵士の死体。
不気味だが殺気は無い。
カラスの鳴き声が戦闘終了を告げている。
戦場跡か。血生臭い所に放り出されたな。
さっきの子供らは何だ。
死者の遺品でも漁りに来たのだろうか。
どれだけ気を失い、放置されていたのか。
ひとまず状況を確認しよう。
装備は。確認する。
腰のホルスターにリボルバーと自動拳銃。
刀の鞘は、銃の下に下げてあった。
片手半剣……背中の方か。
アイテムストレージ。狙撃銃は入ってるな。
他に回復薬と弾薬パックが幾つか。
目立って失った物は無い。
金は最初から無いし。
それと、何かの光景が頭に入って来る。
電脳に付与、流し込まれた記憶情報?
俺は、傭兵として戦いに参加したらしい。
狙撃で援護していた。
しかし、味方が側面を突かれる。
混戦。数人斬り殺して。
そんな所で付近に投石機の一撃。
石か何かの破片を頭に食らった。
そのまま意識を……
冴えないが、最初はそんなモンか。
ここからどう展開したモノやら。
見た感じ、負け戦だ。
部隊に戻っても、給金が出るかどうか。
「きゃーっ! きゃーっ!」
ふと、オオカミに追われる子供の姿。
銃撃で援護、オオカミを散らしてやる。
と、オオカミども、こっちに向かって来た。
銃撃。どうにかヘッドショット。
ほぼプレイヤースキル依存なのが厳しい。
相手の数も多い。
間に合わなくなって足を噛まれた。
抜剣、片手半剣。
左手を添えての諸手打ち。
「離して! 嫌ぁーっ!」
オオカミが片付くと、反対方向で悲鳴。
別の子が怪しげな連中に髪を掴まれて。
狙撃、狙撃。鎧姿で動きの鈍い雑兵3人。
これぐらいなら相手にもならん。
えー……子供ら、ちょい集合。
死体漁りを咎めたりしない。
道案内。あと、事情を聴きたい。
東下層区の子供が2人。
鍛冶屋の孫ユッタ。
娼婦の母を持つマリナ。
もう少し身なりが悪いのが2人。
下層区の教会在住、孤児。
イェンナとフェドラ。
それぞれ2人ずつ友達らしい。
どちらも金が必要なのは想像に難くない。
で、死体剥ぎを……
協力して集めようか。警戒役を分担する。
幾らか安全に集められるだろう。
「え、でも……」
「えーっと……」
4人揃って難しい顔。
どちらのチームも難しい顔だ。
危険を冒してでも金が欲しい。
しかし、下手すると生きて帰れない。
各自、取り分は自分の物にしようか。
俺が警戒するから、その代わり。
俺の分も少し拾っといてくれ。
これは護衛料金代わりだ。
悪い大人に捕まるよりマシだろう?
「う、うん……しょうがない、かな」
「ちぇ、分かったよ。
ブアイセイだからなー」
周囲を見回して、傷んだ荷車を見つけた。
幸か不幸か、持ち主は首から上が無い。
子供たちが慄くので、俺で放り出す。
たちまちオオカミ達の餌食になった。
死体剥ぎ。
重い死体から鎧を剥ぐのは手間だ。
子供達と協力、盾と武器を中心に集める。
時折現れる残兵だの盗賊。
こいつらはオジサンが排除してやる。
探知魔法で索敵、空間魔法で地形確認。
あまり遠くに行くなよー?
「なんか、慣れてるね……」
「頼れるね〜」
子供達、ユッタとフェドラが感嘆の声。
まあ、慣れてるけど、油断しないで。
敵排除。レベルアップはともかくとして。
子供を助けた事でスキルポイントを得た?
善行を積んだらボーナスがあるのか。
これは拾った武器のスキルにでも振ろう。
寄って来るオオカミや盗賊。
これを銃でスパスパ撃ち殺す。
と、警戒したか近寄って来なくなった。
一旦集合して、成果を確認しよう。
「いちち……」
「うわ、大丈夫?」
自称盗賊イェンナ、指から血が出ている。
剣の刃で切ってしまった様だ。
治癒……と、消毒って解毒魔法で良いか?
「ちょ、やっ……
え、お、おお……治った?」
やたら困惑されている。
何かされるかと思った、か。
貧窮と猜疑が染みついているのだろう。
それも身を守る術だ。
安易に信用しろなんて言うまい。
「か、勝手に治したんだからな。
治療費なんて、その……」
金の心配だったか。
俺も練習中なんだよ。
金は取らないから、気にするな。
収穫の方を確認。剣が20と少々。
丸盾・三角盾が合わせて15と幾らか。
あと槍とか諸々が束になって……
俺は片手剣1本、短剣2本。
弓とボウガンを1つずつ貰う。
「え、あれ、そんなんで良いの?」
「何だよ〜、気前良いじゃん」
「半分ぐらい取られちゃうのかと思った」
ブアイセイだからなー。
そんな貰っても急に使いこなせないしな。
魔道義眼機能、簡易鑑定。
廃品同然の武具。
売却予測価格が100前後。
この1つ1つが、この子達には惜しい。
それだけ金に困っているのだろう。
俺も欲張らず、フォローと練習に徹しよう。
お陰でレベルが2つ上がった。
……レベル3、か。
変な強敵とか出なきゃ良いんだが。
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