黒鷲の旅団
10日目(7)汚れた村の物語
教会に駆け付けると。
村人達が子供達と睨み合っていた。
子供達の後ろにマイナさん。どうした?
「マイナさんは私達と行くんです!」
「マイナは、おっ、俺達の、物だ!」
発端は、マルカが文句を付けた。
村を出るから金を返せと言って。
マイナさんも村を出ると伝わった。
それで村人から猛反発。
難癖付けて来るとは思ったけれども。
金で払うのを渋ったのはそちらだろう。
そちらの提案通りの代償を頂くまでだ。
「一晩貸してやる話だろう。
連れて行くのは話が違う!」
「ガキどもはともかくだが。
マイナは渡さねえ!」
「ちょ、ちょっと待て!
子供達だって困るぞ!」
「と、とにかく神人様。
やっつけちまってください!」
……神人、様?
村人達の後ろから、神人。
まぁ、神人だが。
「はっはぁ!
久しぶりだねハインリヒ君!
RPやっとるか、ん〜?」
伯爵なのに名前がバロン。
サンダーバロンさん、久しぶり。
この人なら交渉の余地はある。
物語とやらを提供しよう。
廃れた村と、半竜人の子供冒険者。
その間に起きた物語を。
差別されていた半竜人の少女。
やっと見つけた仲間が居た。
一緒に盗賊退治で手柄を上げて。
奪われた財宝を持ち帰った。
それを自分1人の手柄にされた。
貧しい村は潤うが、少女は泣くんだ。
友達を認めさせてやれなかった。
少女は友達と村を出ると決めた。
俺は少女の決断に味方する。
邪魔はさせない。
「なるほど、なるほど〜。
良い話と酷い話。
竜人少女の友情物語は美しいが。
そ〜んちょお〜……
あれ、村長どこ行った。
ネコババはいかんぞぉ〜?」
村長の代わりに責められるのは農夫達。
「あ、いや、それはそのう……」
「言いがかりです。
俺達は知らなかったんです」
「ほほう、これは傑作。
何から何まで知らないってぇ?
我輩からも1つ物語を聞かせようか。
ある可哀想なシスターと。
貧しい農村の小遣い稼ぎの話だ」
サンダーバロンは淡々と語る。
貧しい村に、1人のシスターが居た。
マイナ・フリードリーン。
シスターマイナ。マイナさん。
身体に幾つか障害を持っている。
可哀そうなシスターだった。
金銭的にも貧しい村。
心も貧しい村の村人達。
障害を持ったシスターを差別する。
勿論、ロクに寄付金は集まらず。
神聖教会の支援金も没収。
村の為と言って村長の懐に入る始末。
村の孤児達は、いつも腹を空かせていた。
そんな折、村に兵隊がやって来た。
略奪する物も無い貧しい村。
儲けが無く、兵隊達は腹を立てる。
あわや皆殺しかという所。
村長は兵隊達と取引した。
シスターの身体を差し出したのだ。
兵隊達は数日に渡り滞在。
シスターに暴行凌辱の限りを尽くした。
そして想定以上に満足して。
幾らか謝礼を置いて去って行った。
この謝礼に味を占めたのは村長達。
村に旅人や冒険者が来る度。
シスターを生贄に礼金をせびる。
シスターは日々の食料を代価として。
この売春行為を受け入れた。
しかし、僧籍の者が売春など。
許される事ではない。
教会の裏手に、数多くの墓がある。
この人口も少ない村。
一体誰が死んでいるのか。
シスターの子供だ。
孕んでは堕胎している子供達だ。
自分で降ろしてくれる。
さぞ都合が良かったんだろう。
シスターの売春と村長らの斡旋行為。
これは何年も続いている。
「何、神人の間では有名な話だよ。
美人シスターがヤらせてくれる村。
都合が良かったんだろう。
誰も止めようとしていなかったが。
ハインリヒ君に見つかった。
運が悪かったなー」
最早これまで。
黙り込み、項垂れる農夫達。
逆にマイナさん、号泣。
大声で泣き出してしまった。
「私、知られたくなかった!
私は穢れた女だから。
だから連れて行って貰えないんだ!
やっとどこかへ行けるって思ったのに。
一緒に行く資格なんて無いんだあ!
うわああああっ! ああああああん!」
…………いや、連れて行くけど。
えっ、と振り返るマイナさん。
そんなに意外な事か?
子供達の為にと脅されて。
仕方なく身体を差し出した。
そんなあんたを汚いなんて言わせない。
ほら、涙を拭いて。
俺達の決定は変わらない。
子供達も慰めてくれる。
手を繋いだり背中をさすったり。
受け入れるよ。
俺達はみんな、あんたを受け入れる。
「慈悲、愛、揺るがぬ決断。
差し伸べる手は温かく。
そして彼女の道は開かれた、か。
君の物語は優しいな」
事の首謀者について。
バロンさんは俺に判断を委ねる様子。
怒りのまま殺す、のは、無しだ。
ちょっと迷ったけれども。
村長達の処遇。
公主様に報告させて貰う。
おかしな真似をすればどうなるか。
村の存続すら無いと思え。
少し遅れて近衛隊が到着。
彼女らに事件の関係者達を引き渡し……
あれ、肝心の村長は?
今朝捕らえた盗賊達も姿が見えないが。
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