黒鷲の旅団
10日目(8)択一

「どこにも居ません!」
「おのれ村長めぇ〜!」

 シスター・マイナへの売春強要事件。
 まず下手人として捕縛したのは3人。
 ウィル、ドネリー、アモス。
 主犯と思しき村長フリントが居ない。
 憤懣遣る方無い様子。
 近衛隊員が走り回っている。

 最後の目撃情報は。
 道具屋のブシュラさん。
 外部から見慣れない商人が来ていた。
 村長と馬車に何かを積み込んでいたと。
 ともすれば、一緒に逃げた可能性もある。

 何か手掛かりは残っていないか。
 俺も村長宅の調査に加わる。

 村長宅は無人。落ち着いた雰囲気。
 慌てて逃げた様な跡は無い。

 探知、空間魔法。解析……反応がある。
 座標が低いな。地下室か何か。

 看破、洞察、推論スキル。
 空間の形から当たりをつける。
 念入りに探る。

 絨毯の下に隠し扉があった。
 扉を開き、中の梯子を降りてみる。
 薄暗い。照明魔法。

 鉄格子のついた部屋が3つ。
 散乱する拷問具や調教道具。
 あと、鎖に繋がれ床に転がった女2人。

「う……うう……」

 息はある様だ。大丈夫か。
 手枷を解錠魔法で外す。

 名前はツィアとリーチェ。
 元盗賊。今朝方、俺達が捕虜にした。
 近衛隊に引き渡す予定だった。

 しかし村長ら。
 捕虜を引き渡すのを惜しんだ。
 目的は奴隷に落としての転売だろう。
 特に女盗賊は娼館に売り飛ばす。
 ブシュラが見たという馬車。
 恐らく奴隷商人の類だな。

 ツィアは村長に気に入られた。
 自分用に確保されていたらしい。
 結局は売るつもりだったかも知れないが。
 今日は奴隷商人に連れて行かれなかった。

 リーチェの方は……俺用?
 マイナ達がダメならこいつで?
 そんな事を言っていたらしい。

 あのジジイめ。
 何で他人の身体で払おうとするか。

 ともあれ、自分用を置いて行った。
 戻って来るつもりかも知れない。
 もっとも、それを待てるかは怪しい物だが。

 ツィアとリーチェには治癒魔法各種を。
 逃げる意思も無い様子。
 ひとまずブシュラに預ける。

 村長は指名手配でも掛けて貰うとして。
 喫緊の問題は魔王軍。状況と対策だ。
 近衛隊から方針について相談を受けた。

 現在、魔王軍は領内に広く分布。
 各方面からの流通と往来を妨げている。
 物資が届かず、首都は補給もままならない。

 そこで公主様が作戦を立てた。
『第1回・魔王軍をやっつけろ大作戦』。
 レア装備や領主就任をエサにした。
 急ぎ戦力を集めている。
 プレイヤーイベントという事か。

 魔王軍には既に宣戦布告を行っている。
 受けて立つとの返答まで頂いており。
 首都南方、勇者も魔軍も決戦の地へ。
 続々と集結している様だ。

 魔人達には派閥争いがある。
 街道閉鎖に拘って出遅れたく無かろう。
 戦闘開始に合わせ街道を離れると思う。

 問題は、行き掛けの駄賃。
 進路上にある村を襲うか否か。

 襲撃はある。
 という前提で動いた方が良い。

 取り越し苦労なら、それでもいいが。
 油断して攻め込まれると全滅する。

 村長不在時に緊急事態。
 急ぎ村長代理を選出。
 農夫ゼールバッハが村長代理になった。
 村人を集めて貰う。
 こちらの考えを伝える。

 魔王軍が村を通る可能性がある。
 守りを固めるか。
 それとも脱出してしまうか。

 村の総意。
 脱出には否定的だった。
 住み慣れた村なので残留したい。

 残留できるかは魔王軍次第になる。
 公主側で大きな損害を与えられたなら。
 あるいは魔王軍も後退するかも知れない。

 しかし現在、戦線は停滞している。
 公主のプレイヤーイベント。
 どれだけ人が集まるか。
 数が多くても、レベル差。
 場合によっては歯が立たない。
 希望的観測は危険だ。

 ましてや、首都より先。
 村が潰されない保証も無い。

 足が悪い者も居ると主張する者も居る。
 移動中に追われたら逃げ切れない、と。
 足。義足。マイナさんも含めて。
 それを言われると弱いな。

 妥協案。
 明日の午前9時までは防戦。
 それ以降は、後で戻るとしても一度離脱。
 そんな所に落ち着いた。

 決戦が始まれば、街道は手薄になる。
 村を捨てて脱出するなら、そこだ。
 開始時刻は明日の午前9時。
 それまで偵察と防衛強化、防戦に徹する。

 村と心中するつもりの者も居るらしい。
 村長代理には説得を続けて貰う。
 村に齧りつくのではなく。
 一時は避難誘導に応じて欲しい。
 生き残って、いつか帰って来る為に。



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