黒鷲の旅団
1日目(2)戦機の街
「よぉーし♪
弓が要るならぁ、矢も要るよね〜?」
フェドラが矢を拾ってくれる。
マイペースながら気の回る少女の様だ。
矢束が4つ出来た。
2つ貰って、あとは売り物にしよう。
と、マリナも矢束欲しい?
時々弓で狩りをしているらしい。
食費を浮かせる為だろう。
私も覚えたいとフェドラが言う。
丁度一本落ちていたので、譲ろうか。
私が教える、とマリナ。
早くも仲良くなった様だ。
廃品もそこそこ集まって、街へ向かう。
「止まれ! 止まれぇーっ!」
門の所で衛兵に呼び止められた。
曰く、国軍の装備は備品だから返せって?
集めた剣や盾を持って行かれる。
子供達がションボリ。
……いや、待て。騙されんぞ。
少なくとも、そっちのナイフ。
それは人攫いの落とし物だ。
あと、国軍側で参戦した記憶がある。
遺品回収だって任務に入らないか。
給金が出ても良いんじゃないか?
「うっ、し、しかしだなー」
「こんな盗人紛いなガキどもを連れて」
「構わん。渡してやれ」
兵士達の後ろから威厳ありげな男性。
鎧甲冑は兵士らより高級品に見える。
「うひっ! だ、団長!」
「よ、よろしいので?」
騎士団長と名乗る男から傭兵基本給。
拾い物も半分ぐらい残してくれた。
傭兵の基本給として、10万。
子供達にお駄賃として、給金を頭割り。
「こんなに!」
「あ、あのっ、ありがとましたっ!」
「まっ、まぁー、礼は言っといてやんよー」
「ありがとねぇ〜♪」
子供達はそれぞれ帰宅。
嬉しそうな顔にほっこりしてしまう。
手元に残ったのは、痛んだ武器が数本。
あとは小さな歓声を報酬とする、か。
「子供の面倒を? 奇特な神人も居るものだ」
騎士団長クロイツァー。
どうも興味を持たれた様だ。
神人、が異世界人を指す言葉らしい。
死んでも生き返る、無限に成長する。
この世界の住人より能力的に有利らしい。
戦争は一旦収束。今日の所は休戦。
敵味方に多大な損害が出た為だと。
しかし小競り合いは続く見込み。
また機会があればと、参戦を期待された。
騎士団長に礼を言いつつ、街へ入る。
さて、どこへ足を向けようか。
一応は金を得たが、次の準備が要る。
補給と休養……あと、食事とか。
仮想現実とは言え、空腹感は再現される。
挙句、行き過ぎるとHPが減って来る。
この生命の制約には逆らえない。
『おーい、聞こえる? おーい』
唐突に、頭の中に声がした。
電脳通信的な機能は無いと思うのだが。
通信の魔法? どこでそんなモン。
初期の習得可能リストに入っているらしい。
習得を促された。
ウインドウ表示。俺も覚えよう。
双方が使えないと会話にならん様だ。
『おっ、返事来た』
『よーう、そっちはどこだー?』
通信魔法。
音声通信のみで、男女の声。
知ってる声だ。顔は思い浮かぶ。
女の方はロッシィ。
活発で人懐っこい印象。
ボーイッシュな短髪の娘。
男の方が長い金髪。
ロッシィの彼氏のサナトス。
綴りはTHNATOSになる。
割と?よくあるユーザー名らしく。
以前、他にタナトスさんが居て被ったり。
他、諸々の思惑もあってサナトス読み。
2人の現在地は?
ル違いでルクセンブルクに居る様だ。
そっちかーい。
もう1人の同僚グレッグは。
聞き損じてロシアまで行った?
ルワンダじゃないだけマシか。
追々、合流を目指すのもアリだろう。
すぐ合流しようぜとロッシィは言うが。
戦場跡を見た限り、盗賊やらも出る。
遠出をする実力を身に付けないと。
『そっかぁ。一緒に冒険したかったけど』
『また何かあったら通信くれな』
通話終了……ん?
視界の端に青いバー。
ゲージ的な物が減っている。
これがMP表示か何か?
通信だけでも結構消耗する様だ。
中央通りを行く。
見渡せば軍人、傭兵、武装集団。
戦機に満ちた街。人が集まる。
宿の確保には苦労しそうだ。
酒場を見つけ……満席だな。
立ち食いで構わんと言って軽食を取る。
食後、宿を探してみるのだが。
中央通りの宿屋、3件満室。
上層区まで行くと高くて手が出せない。
道具屋……寝袋が売り切れている。
「あんた、新人さん? 見ない顔だね」
「宿? 他の地区には行ってみたかい?」
気さくそうな連中が教えてくれた。
なるほど、広い街だ。
他にも幾つか店があるだろう。
彼らは戦争屋でなく冒険者だという。
パラディオン一行。覚えておこう。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|