黒鷲の旅団
10日目(11)襲撃前夜
〜不安の闇に希望を灯して〜
日が傾いて来た。
各自、食事は済ませたな?
あとは早々に就寝準備。
今日は早く寝る様に。
「え、え、だって。
これから敵が来るんじゃないのか?」
マルカ、確かに来るとは思うんだが。
早々に来るなら、大した相手じゃない。
「えー、なになに?」
「何の話?」
他の子達も興味がある様だ。
少し説明しようか。
魔王軍の兵隊、例えばゴブリンだが。
ゴブリン達は夜が朝。朝が夜なんだ。
夜来る奴は朝飯前。
まだ腹ペコでふらふらしたザコだ。
本当に怖いのは夜中から朝。
フル甲冑でドレスコード決めた奴。
武器を手に手にディナーに来る奴ら。
こっちのが、よほど手ごわい。
もっと言えば。
連中が人間の生態を熟知しているのなら。
夜明け前、夜警戒が終わる頃。
気の緩んだ頃を狙って来る。
これは俺達人間でも同じ。
兵隊を襲撃する時にも使える話だ。
冒険者や傭兵として。
こういう知識も身につけて貰う。
これから毎日お勉強だぞ?
「げー、マジかよー」
「まあまあ面白いかもね」
顔をしかめるマルカ。
ティルアは意欲的。
くすくす笑うマイナさん。楽しそう。
少しは元気になっただろうか。
さて、近衛隊が交代で歩哨に立ってくれる。
寝られる内に寝ておく様に。
最初の報告が来るまで要警戒だ。
探知魔法を展開しつつ。
各種装備の整備。
……襲撃の気配、無し。
『あーう〜。ご主人、お客さん〜』
巡回の花人隊、アンゼさんから通信。
出向いてみると、アラクネさん。
木の上を伝って来たのか。
下の茨は影響無し。
しかし村に配慮してくれた。
2つ外側の茨障壁の前で待っていた。
用向きは、魔王軍の動向。
ゴブリン兵の話を聞いた?
北西の一団に接触したらしい。
罠を仕込んだと言っていたという。
先の近衛隊への暗示だろうか。
それについては対処済みだが……
ともあれ、北西の一団。
奴らは間違いなく村を狙っている。
「あいつら、人間殺して食べてたわよ。
逃げた方が良いと思うんだけど」
勿論だが、まだ街道上。
魔王軍が出張って来ている。
タイミングは見計らいたい。
アラクネさんは心配しつつ。
木を伝って帰って行った。
……木の上を伝って来る、か。
そんな奴らが敵にも居た場合。
この布陣では対処が難しいか?
対策を考える。
敵が来る街道、西方向を正面として。
側面、南北にも罠を張った方が良い。
多数相手には火攻め。
火計が常套だろう。
錬成魔法。タール……
トロールには火力が足りんだろうか。
爆薬魔法では吹っ飛んでしまう。
延焼を狙えない。
シャンタルの手帳を引っ張り出す。
幾らか目を通す。
煮沸魔法というのを見つけた。
それと……錬成・蒸留・融解・精製。
鎮静魔法で安定。
煮沸魔法で揮発性を付ける。
構想は決まったが。
少し村を離れて試そう。
数回失敗して。
想定内だが、危ないな。
それでも何とか燃料魔法を発動。
燃料魔法。
クリエイト・フュエル系列。
レベル1では固形燃料。
石炭ぐらいしか作れないか。
スキルポイントを30追加。
液体燃料も生成。
ガソリンなんか作れる様になった。
予め撒いておくとして。
臭いが気になる。
すぐバレそう。
消臭魔法と併用。
爆薬魔法も合わせて設置して行く。
花人の巡回部隊は戻そう。
後は探知魔法の出番だ。
罠を設置して。
ここまで襲撃、無し。
俺も少し休もう。教会へ。
マイナさん、子供達はもう寝たか。
少し話がしたいという。
まあ、少しなら。
教会の脇に焚き火。
傍らに座って話をする。
「ずっと怖がっていてごめんなさい。
距離を詰めようとしてくれたのに」
俺に余所余所しかった。
単に怖かったらしい。
傭兵が、武器が、顔の傷が……
というより、男が、か。
障害のある自分。
差別し、忌み嫌う一方で。
若い男達は嫌らしい目で見て来る。
一度、暗所に連れ込まれ掛けた。
レイニとマルカが駆け付けた。
その時は事無きを得たのだが。
ずっと狙われていたのだろう。
村が兵隊に襲われる前から。
俺の義手が羨ましいと言う。
マイナさんの右足。
棒みたいな粗末な義足。
村から出て、どこまで行けるかと。
義足か。関節が欲しいな。
ルーシャみたいに。
街のウェルベックなら作れるだろう。
金の方は俺が出す。
働きで返してくれたら良い。
と、不意に。
マイナさんは立ち上がる。
「私、ただじっと耐えていた。
嵐が過ぎるのを待っていた。
違うのですね。
立ち向かって乗り越える物ですよね。
人生は、冒険……
冒険、しなければ、ですよね!」
元気が出たマイナさん。
意外と冒険好きらしい。
さあ、もう寝ないと。
力を蓄え、まずは窮地を乗り越えよう。
精神、夢操魔法。今は良い夢を。
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