黒鷲の旅団
10日目(12)襲撃前夜
〜公主様は忙しい〜
『という事でぇ〜。
明日はいよいよ本戦だゾ♪
みんなルーマニアに集まれぇ〜♪』
やたら媚びたイーディスさん。
イベント紹介がネットに上がっていた。
現実側のイーディス公主。
宣伝を頑張っている。
これに対し。
プレイヤーの反応はボチボチ。
景品のレアアイテム。
間違い無く興味を引かれている。
爵位を得るのも面白そうだと言われ。
ただし領主就任。
これについては、賛否両論ある様子。
『領主様だってよ。面白そう』
『えー、めんどくさくない?』
『住民から税金取れるのか?』
『戦争に加担するとか……』
『領主が冒険行っても良いんだよな?』
メリットは地位と名誉、税収。
デメリットは責任と手間。
あと自由がどうなるか。
そもそものゲームとして。
『7th Earth』の世界だが。
メインコンテンツ。
ファンタジー世界での『生活』だ。
ダンジョン探索や魔物退治がウリ。
国家経営や何かは後付けのシステムらしい。
束縛を求めないプレイヤーも多い。
既に冒険者として。
探検家として生活があろう。
その自由を確保しつつ。
領主……出来るのか。
何しろリアルな世界構成である。
経営知識が無いと歯が立たない。
領地経営は楽ではない。
手放しで初心者に丸投げは出来ない。
研修だけで何日掛かるやら。
通信、イーディスさん。
は、既に手を打っていた。
軌道に乗るまで面倒を見る。
資金援助やアドバイスを出す。
希望者には代官を派遣。
領主の仕事を代行させる。
税収と住居だけ活用すれば良い、か。
『ああー、あたしも今ね。
自分の動画見て気付いたわ。
説明が足りてないのね。
教えてくれてアリガトね。
触れて回っとこ』
何かと意欲的なイーディス公主。
彼女が主導で領主を任命するメリット。
それは、実質的な支配を広める。
息が掛かった地域を手に入れる事にある。
並み居るライバルを排除した。
継承権を勝ち取った公主様。
それでも対立派閥は少なくない。
奴らは戦争時に兵を派遣して来ない。
これが苦戦に拍車を掛けている。
内政を理解する人材が最良だが。
最低限、指示に従って派兵して欲しい、か。
『で、あんたも領主やるでしょ?
希望の任地とかあれば聞いとくよ?』
本当に、サラッととんでもない事を。
貴族冒険者ダニエルへの対抗策。
貴族と渡り合う為の地位は欲しい。
領主権限というのも魅力はある。
政令やら指定出来るのだろう。
領地内の亜人差別を緩和出来れば……
しかし、名目はどうする。
戦力としても配置としても。
村1つ守るのが精々。
全体への寄与は小さい。
シュテルン公国を追い返した功績。
それも領主就任には見合わない気がする。
小ズルい遅滞戦闘で敵兵700人を葬った。
真っ向から5千人打ち破ったのではない。
誰か敵将の首を上げたのでもない。
それを取り立てて領主就任。
これでは波風も立つだろう。
他に居なくて仕方なく。
それなら説得のしようもある。
魔王軍を打ち破って追い返して。
よっぽど領地が余ったら。
その時はお受けしよう。
『分かった。任せといて。
メッチャ領地もぎ取ってやるかんね!』
と、イーディスさん。
意気込みながら通信終了。
断ったつもりが炊き付けてしまった。
時世が安定していたら定住も良いんだが。
こう戦乱の世。
領地を捨てての脱出もあり得る。
あんまり土地に縛られたくないんだが。
しかし、宣伝動画についたコメント。
イーディスを応援する声は多い。
『応援してやろうぜ』とか。
そうだなあと思ってしまう。
攻略サイト、ある程度は辿ってみた。
かつて数多くの神人国家があったらしい。
しかし何かしら行き詰った。
軍事か経済か破綻。弱体化。
NPC国家に併呑されて行った。
今でも残っている神人国家、
もう10カ国にも満たないという。
イーディス公主の傘下。
『ロンバルディア公国』も、その1つだ。
イタリアを北部から。
東はルーマニアまで領土を広げている。
仮にも社長令嬢だ。
知識や才能は確かな様で。
シュテルン公国と接戦を続けている。
妹の友人、頑張り屋な娘。
素っ気無く見放しても可哀想か。
何か力になってやれると良いんだが。
まあ、それ以前に。
俺達が生き残れるかどうか。
少々微妙な状況。
孤立した村、魔王軍と衝突必至。
まずは生き残ってみよう。
生き残って、生き残らせてから、だ。
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