黒鷲の旅団
1日目(3)お安い仕事も淡々々

 俺が向かうのは、東区。
 子供らが向かって行った先だ。
 何かの伝手を得られるかも知れない。

 中央、王城を離れると、グレードも下がる。
 貴族街、高級感のある街並みから平民街へ。
 下層市街にもなると治安も怪しくなる。

 東区平民街の端。
 あまり流行ってなさそうな酒場を見つけた。
 人の気配はするのだが、どうだろう。
 こういう所も宿を借りられなかったか。

 ……まぁ、入ってみるか。

「傭兵さん? ……何の用だい」

 訝しげなのは女将のエノーラ。
 泊りたいんだが、部屋は借りられないか?
 満室だが物置なら開いていると……
 それでいい。金は同じに払うよ。

 宿泊費を前金で払う。
 すると女将は少し機嫌を良くした。

「ゴメンゴメン。
 最近、ツケにしてく客が多くてねぇ」

 それは良くないな。
 労働には対価を支払う物だ。

 女将が物置きを部屋に整えてくれる。
 簡単な机と椅子、狭いベッド。
 1人泊るには十分だ。

 一息ついて、スキルポイントを割り振り。
 刀用に居合い、短剣用に投擲スキル。
 魔法も基本5属性の残りを揃えておく。
 未収得の身体系スキルも追加して……

 そうだ、弾薬の補給もしなきゃならん。

 女将に道具屋の場所を聞く。
 と、ついでに配達を頼まれた。

 冒険者の、仕事?
 どうやら酒場でも依頼を受けられる様子。

「今みんな戦争ばっかりでね。
 溜まっちゃってる。
 片付けといてくれると助かるよ」

 と、配達は他にもある様で。
 まだ日は高く、昼食も取ったばかり。
 街を見て回るついでだ。
 壁に貼り出された仕事を幾つか請ける。

 さて出ようかという所。
 女将が金属片の様な物をくれた。
 無等級の冒険者認定証?
 簡単な身分証明になるらしい。

 無等級。平社員みたいなモンか。

 まずは道具屋へ。
 ドリスと名乗る若い女店主。
 弾薬は……置いてるか。良かった。

 あと、郵便です。郵便配達。
 が、届け物の依頼に発展。

「ホントは仲介料払わなきゃだけど。
 これ内緒ね?」

 細工師のミラベル婆さんに、届け物。
 から、ドリスに戻る手紙。何とまあ。

 下層区の教会に届け物。
 から、西区の教会に手紙を……うーむ。
 便利に使われている感が強い。

 揃って口にするのは、内緒ね、の言葉。

 冒険者ギルドに依頼を出す。
 ギルドは仲介料を取って運営に回す。
 個人間で遣り取りするのはルール外か。

 しかし、面倒だろうというのも分かる。
 私的な配達でも報酬は出る。
 達成すればスキルポイントも増える様子。
 対価が出る以上は気にしない事にした。

 訓練も兼ねて、駆け足。
 敏捷や疾走、持久力スキルの鍛錬だ。
 ゲーム世界なりに、スキルの熟練は伸びる。
 スキルレベルが上がる。
 それに応じてパラメータにボーナスが付く。

 配達・人探しが数件。
 空間魔法で街の構造を表示。
 探知魔法でマークをつける。

 ……誰だ、時計塔とか登ってる物好きは。

 魔女のジニーさん?
 が、隠れて彼氏とイチャイチャしていた。
 魔女協会から、出頭要請ですよー。

 すぐ戻るねと言って、ジニーさんが駆けて。
 残されたのは……なんか年行った彼氏だな。
 ジロジロ見ていたら口止め料を渡された。
 どうか内密にって、浮気? うわあ。

 次、衛兵のイライザさんに手紙。
 これが破って捨てられた。
 しかし、俺には笑顔でありがとう?

 娼婦のアニスさんに呼び出し。
 いや、俺でなくて。
 娼婦ビビアーナさんに手紙。
 俺が良かったと言われても。

 何か疲れるな、この仕事……
 収入も細かくて、稼いだ気がしない。
 散歩がてらだから、こんなモンか?

 ドリスに戻る手紙。
 今度は女将エノーラへ包み。
 これを受け取り、また酒場に戻る。

 と、泣いている少女が1人……
 くそう、今度は何の配達だって?



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