黒鷲の旅団
1日目(4)ザコなのは今の俺も同じで
「ふぐ……ぶしゅっ……ふぎゅうう……」
泣いていたのは見た所、魔女……
見習いの魔女か。
聞けば先輩とケンカして。
そのまま飛び出して来てしまったらしい。
涙と鼻汁が凄い。女将、何か拭く物を……
どうも聞き取り難いのだが、断片情報。
試験がある。薬を作って提出?
材料を……取りに行けない。
一緒に行くハズの先輩とケンカした。
外は盗賊やモンスターが居て危険。
自分は落ちこぼれ。
追い払うだけの力も無いと……
女将さん、俺でも依頼を出せるのか?
道案内を前金5千で依頼する。
さて道案内のお嬢ちゃん。
俺を護衛に5千で雇わないか。
にわかに明るくなる少女。
名前はサンドラか。よろしく。
「ま、まま、待ってて!」
慌てた様子で支度に行って。
またバタバタと戻って来るサンドラ。
少しオシャレした様だ。
準備はそれで全部か?
それじゃ、行ってみようか。
街の東門を出て、フィールドへ。
1人ぼっちじゃなくなった。
サンドラちゃん意気揚々。
すてててと走り出し……急停止。
ムリムリ言いながら戻って来た。
前方にゴブリン2匹。
お客さん、護衛より前に出ない様に。
ゴブリン……が、意外と難敵だった。
小柄だが、腕力は人間の大人ほど。
動きも素早く道具も使う。
これ、ザコと思って掛かると死ぬか?
神人は死んでも生き返る。
そう小耳に挟んでは居るのだが。
その間にサンドラちゃんが殺されても困る。
死ねない物だと心して掛かる。
短剣二刀、目や首を狙う。
複数相手だ。閃光魔法で怯ませる。
一方を神経魔法で麻痺。
1対1に持ち込む。
片手半剣で諸手打ち。ぶつかる剣と剣。
腕力差は大して無いのか。受け流す。
足払い、片手空けて炎魔法。
剣を両手に持ち直して頭を割った。
2匹目。ギリ間に合った。
熟練レベル1のパラライズ。
解けるか今解けた所だ。
先手を取らた。
うっかり刺突短剣で武器受け。
折られた。一旦捨てる。
拳銃抜き撃ちで射殺。
敵の援軍が来る。
二丁にして周囲を掃討する。
……結構シビアだな。これでザコか。
元から多少の心得がある。
装備も銃があるから良い様な物の。
守る相手が居る。気を抜けない。
序盤から大汗をかいてしまった。
レベルの高低で、差が出るんだろうかな。
一般人プレイヤーとか、どうしてんだ。
徒党を組んで倒す、とか?
レベルが上がれば幾らか変わるかな。
「うにゃっ! うにゃああん!」
背後で、悲鳴?
サンドラちゃん、騎馬盗賊に攫われ掛ける。
弾をケチってる場合じゃない。
狙撃銃で連射。盗賊を射殺。
転落したサンドラ。大きなケガは無いか?
「ふぎゅううううー……」
涙目で、頭を摺り寄せて来る。
よしよし、怖かった。もう大丈夫だぞ。
ゴブリンを排除し、開けた場所に出て一息。
サンドラは薬草摘みに取り掛かる。
お尻を振り振り。
可愛いんだか無防備なんだか。
俺は周辺警戒。
寄って来るオオカミや、殺人バチを排除。
ハチは耐久力が弱く、弓で倒せなくもない。
オオカミは機動性が高い。銃でないと辛い。
ゴブリンは意外と手強い。
なるべく狙撃で済ませる。
済ませるが……近接も鍛えたいな。
スキルレベルは与ダメージを上乗せする。
使い込む事でスキルが育って行く。
つまり、避けてばかりでは成長しない。
ゴブリンを1体だけ残し、刀で斬り合う。
皮鎧を着ている。着ている所は避ける。
薄くても良い。速く鋭く斬る。
魔道義眼、スキャン。
状態異常『失血』を付与した。
継続ダメージがゴブリンのHPを削る。
重心を後ろに残しつつ、首元へ袈裟斬り。
倒し切れん。棍棒を振って来る。後退。
3撃目を受け止めながら擦り落とす。
持ち手の指を切る。
若干怯むゴブリン。
しかしすぐ左手に棍棒を握り直して来た。
化け物にしては冷静だな。
神経魔法で阻害しつつ、滅多切りを続ける。
冷静に見極めれば、攻撃は避けられそうだ。
問題は、失血しても大して弱らない生命力。
あるいは、弱すぎる俺の攻撃力。
暫くして、サンドラが駆けて来た。
ゴブリンが邪魔。射殺。
ヘッドショットなら流石に即死する。
当面は銃をメインにするしかないかな……
さてサンドラちゃん。
気が済ん……でもない様なのだが。
どうした。何か問題が?
「日が落ちると、しょ、しょの……危ない?
夜は、あ、アンデッドの時間。
危険らの、らので」
日が暮れると危ないから帰ろうと。
試験まで日はある? なら一旦戻ろうか。
お喋りは苦手な娘だが、堅実な判断だ。
それとも苦戦する俺に気を使ったか。
いずれにせよ、帰りは慎重に行こう。
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