黒鷲の旅団
1日目(5)鍛冶屋のハミルトン
「ふ、ふしゅー……」
街へ着くなりサンドラちゃん。
気が抜けてへたり込む。
ほらほら、気を抜くのは早いぞ。
門を通過。
衛兵には声を掛けられなかった。
敗残兵の落した武器はストレージの中。
隠しておけば監視から逃られられる様だ。
今度子供らに会ったら提案してみよう。
サンドラちゃんは一旦帰宅。
準備して出直すという。
夕食は同席したいと。
それじゃあまた後で会おう。
痛んだ刀剣を修繕したい。
あと折られたスティレットか。
東区で鍛冶屋を探す。
年老いた店主ハミルトンと……
「あっ、お兄さん!」
ユッタ。昼間の少女の1人。
そう言えば鍛冶屋の孫だったか。
「修理か? ふん、見せてみろ」
ぶっきらぼうに武器を受け取る店主。
折れたスティレットには顔をしかめて。
しかし、続けて刀の方を手に取って。
少し目の色を変えただろうか。
「この短剣は買い替えた方が早いな。
こっちはまあまあだ。研ぎ直してやる」
材料費代わりに鍛冶仕事を手伝わされる。
お客さん相手に、と口を尖らせるユッタ。
いや、良いんだ。貴重な経験だよ。
さて、この、寡黙そうな老人。
といった印象だったのだが。
ユッタが席を外すなり、だ。
ハミルトンから話し掛けて来た。
「すまねぇな。
ユッタを助けてくれたんだって?
あの子が危ない事をしている。
そこまでは分かってるんだ。
ただ、何を何の為にやってんのか。
なかなか口を割らなくてな」
なるほど、孫娘が心配らしい。
遠ざけている間に聞き出そうと。
しかし俺も、金が要るとは聞いたが。
その理由までは聞いていない。
後ででも、それとなく聞いてみよう。
「頼むぜ。しっかし、東洋刀なあ。
格好つけで持つ奴も多いんだが。
お前さんは上手く斬っとる。
ヘッタクソは、すぐ折っちまってな」
武器の使い方にも詳しそうな爺さん。
聞けば昔は彼も戦働きをしていたらしい。
脚を悪くして、一線を退いて。
脚は治ったんだが、嫁さんが出来て。
守らなきゃならんと戦場を離れた。
それでも、何か戦場に。
武器に関わる仕事がしたかった。
鍛冶屋になったのは、それからだと。
昔は銃も魔法も、そう出回ってなかった。
神人が現れて、急に変わって行ったという。
神人。転生者。電脳コピー体。
要はプレイヤーの分身という奴だ。
今の俺も、その部類に入る。
いつしか神人が相争う様になる。
結果、世界は荒れ放題。
鉄と魔法が行き交い、戦が繰り返される。
爺さんの息子も戦場で命を落とした。
孫が、ユッタが生まれた年だと。
張り切り過ぎたんだろうと言う。
ジジイの話は退屈だろうが、と爺さん。
神人を恨んでいるか聞く。
恨んだって仕方ねぇ、とは言うが。
死んだ息子を偲んで寂しそうに見えた。
息子夫婦の忘れ形見、ユッタ。
彼女の成長を見守るのが生き甲斐だと。
ユッタの事は、俺も心に留めておく。
後は鍛冶屋の補助作業を黙々。
一応、鍛冶スキルがある。
俺も研ぎ直しぐらいは出来るのだが。
ハミルトンの仕事を見ていた折。
ウインドウに表示が出た。
『鍛造スキルが習得可能になりました』
何だろうと思っていたら、立て続けに、
『鋳造スキルが習得可能になりました』
『冶金スキルが習得可能になりました』
『金工スキルが習得可能になりました』
おいおい、何だ何だ。
鍛冶屋特有のスキル?
「ん、どうした。やってみるか?」
ハミルトンに誘われ、お願いします。
スキルを仕込んで、作業を手伝わせて貰う。
鋳型に溶けた金属を流し込むのが鋳造。
槌で叩いて鍛えるのが鍛造。
鉱石から金属を精製する過程が冶金。
金属を細工するのが金工技術。
スキルは武具作成の知識・技術込み。
やり方が分かるという補助だけでない。
製品の性能やらも向上してくれるらしい。
鍛造は、流石に作り切れんかった。
と、ハミルトン爺さん。
続きはやっておいてくれるという。
鋳造で出来た剣……売れそう?
修理代代わりに貰ってくれ。
全然足りない? 足りないからまた来いと。
何だか楽しげに言われてしまった。
そうだな、なかなか面白い体験だった。
また機会を見つけて手伝わせて貰おう。
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