黒鷲の旅団
1日目(7)1日を終えて
「コーヒー?
値が張るけど、良いのかい?」
値が張るんだ……お願いします。
女将に聞いたらコーヒーも置いていた。
少々割高なのは豆から高いのか。
この世界の流通事情かな。
さて、コーヒーを啜りつつ。
サンドラに借りた本に目を通す。
『初級魔女指南書』の内容は。
基本的?な魔法の数々。
幾つかは初期リストに無く。
本に目を通すと新たにリストに上がる。
鍛冶スキルでも見た奴。
『習得可能になりました』だ。
戦場から生きて帰る為に。
サンドラに敵を倒させる為に。
何か使えそうな魔法は無いか。
炎・水・風・土・雷。
基本5属性の精霊魔法。
と別に、攻撃系の神聖・暗黒魔法。
特殊攻撃系、毒・強酸魔法。
阻害系、凍結・精神魔法。
凍らせたり眠らせたり。
「ふん? 読書とは優雅なこった」
「あ、違う。あれ指南書だよ」
隣の席で飲んでいた、冒険者?達。
その内の女性2人。
ベデリアとサスキアが魔女だという。
男が魔女の指南書だ。
少し不審に思われたかな。
知り合いの魔女に借りたんだ。
その子は今、女将さんの部屋で寝てる。
女将も説明してくれて、納得を得る。
「ふうん、優しいんだ」
「ごめんね。疑ってたの分かった?」
逆の立場なら、俺も気にした。
これも何かの縁と、自己紹介。
流れの傭兵だと告げる。
連中は冒険者。ガイゼル一行。
盾持ちの剣士ガイゼルがリーダー。
槍使いのトリット。
レンジャーのジノ。
司祭ラーナ。
魔女ベデリアとサスキアの6人組。
少々食い詰め気味の冒険者。
家賃滞納中だったな。
レベルは10以上、20以下程度。
冒険が上手く行っていない様だ。
色々な要素が重なって……
女将のお情けで置いて貰っていると。
女将は……旦那さんが行方不明。
冒険者だったらしい。
もう何年も帰っていない。
酒場を続けている理由、かな。
そう繁盛していないなりに。
旦那の情報が入って来ないかとか。
そんな期待もあるのだろう。
邪魔して悪いなとガイゼル達が離れて。
コーヒーのお代わり。また読書に移る。
回復補助、活力魔法。
スタミナを取り戻す。
生産系、錬成魔法。
素材を生み出す様だが。具体的には?
鉄くずやタールを作れるらしい。
……タールか。
サンドラ、超ちっちゃく火が出せる。
タールに点火したら何とかならんだろうか。
得られる魔法はこんな所か。
一旦、本を閉じる。
と、閉じた本の表紙に目が行った様で。
隣の席の女が詰め寄って来た。
「貴様……魔女を殺して奪ったな!」
違う違う、と、女将、ベデリア、サスキア。
サンドラが起きて来てた。
嬉しそうに手を振る。
ようやく納得して貰えた様で、陳謝。
「ご、ご無礼仕った!
とんだ早とちりを!
神人には不埒な輩も多く。
その、申し訳ないっ!」
彼女はイメル。
暗殺者を生業としている?
『暗殺教団』なる組織に所属していると。
ガイゼル達がザワザワ。まあ、物騒だが。
魔女協会に薬を頼む事もあるらしい。
魔女達とは懇意にしている様だ。
神人は簡単で良いな、とイメルさん。
俺達神人はウインドウ数タッチ。
NPCは儀式とか手順が要るらしい。
サンドラを促し、部屋に戻らせる。
俺ももう眠らないと。部屋に戻る。
ベッドに身を横たえ薄らぼんやりと思考。
明日は戦場に出て、冒険にも行って……
…………眠い、か。
電脳コピー体、という境遇。
データなんだから、とも思う。
疲労なんて取り外せそうなものだが。
デフラグや何か、情報の整理も必要か。
思考を休める必要がある。
人間と同じく一旦休め、という信号。
それが、この眠気だ。
夜が更ける。眠りに落ちて行く。
転生者もNPCも区別なく。
ふと、NPC。
サンドラや女将、冒険者達を思い返す。
彼女ら精緻に作られた人工知能。
俺達、頭のイカれた電脳コピー体。
どちらが、より人間として相応しいやら。
コピー元に打診。約束が出来た。
移転なり削除なりは待ってくれ。
それだけ通信を済ませておいて。
俺は眠りに落ちて行った。
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