黒鷲の旅団
11日目(9)黒鷲団、敗走中
「それ、大丈夫?」
ユッタの問い。
おっと、熱いから触るなよ?
バーストレーザー放熱中。
義手が、まだ湯気を上げていた。
敗走しつつ、凍結魔法。
繰り返し掛けて冷却を促す。
丘の上で振り返る。
探知魔法、最大望遠。
敵反応は追って来ない。
しかし、探知範囲内。
魔人の視力だ。
こちらを視認しているだろう。
分隊1つ寄越されるだけで窮地。
頑張って、もう少し距離を取ろう。
行くよ、とアウドラが声を上げた。
唇を噛んでいるジルケ。
じっと燃える村を見ている。
ヨルクの死体を置いて来てしまった。
……ごめんな。
ジルケは首を横に振った。
強くしがみついて来た。
痛い。が、これは俺への罰だ。
あの時は、それが限界だった。
だったとして。
限界だったのがもう失敗だろう。
戦いは、それまでの準備の積み重ね。
次は無いぞと肝に銘じよう。
肝に銘じるぐらいしか出来ない。
索敵要員の育成。
戦場を作り変える様な魔法運用。
まだ幾らも打開策はあるハズだ。
あとは知恵を絞る。
鍛錬を重ねる時間も欲しい。
しかし今は、とにかく離れよう。
村から、魔王軍から。
丘を降りて丘に登る。また次の丘へ。
加速、活力魔法を駆使して走る。
「あーもー、疲れたぁー。
もう無理ぃー……」
「頑張ってー、ほらー……
ふぁいと、ふぁいとー……」
疲労から、イェンナがふらふら。
励ますフェドラも声に張りが無い。
他にも、弱音こそ吐かないが。
近衛隊やレイニさんも限界か。
普段はよく喋るバロンさん。
彼ですら、もう言葉も出ない。
探知……敵反応が辛うじて見える。
連中は街道沿いに首都へ向かう様だ。
敵主軍の監視は続けつつ休憩。
一旦休憩にしよう。
休憩。火を起こす。まずは昼飯だ。
イノシシやオオカミの肉を焼く。
花人達には水魔法。
活力魔法で肉体疲労を回復し切れない。
鎮痛魔法を掛ける。
痛くないだけで足がガクガク。
疲労物質を解析。
分解、中和魔法と。
調香魔法はどうか。
何かリラックスできる香りを。
「はっは、素晴らしいな。
我々の世界の知識を魔法に活かすか」
バロンは褒めるのだが。
これらの効果も一時的だ。
疲労物質の生成が止まらない。
疲労自体が消えない事には。
村長代理ゼールバッハから問い。
これからどうなる、と。
戦闘を避け、迂回。首都を目指す。
その為に、まずは態勢を整えたい。
通信。魔女協会、フレスさん。
こっちに向かってる?
急ぎ状況を通達。
村には向かわず首都北西の丘へ。
それと矢弾の補充。
ドリスの店に連絡を。
フレス派のマヌエラさんが待機中か。
弾薬パックはまだ……結構ある?
『何か、バルタザールって知ってる?
怪しい奴が卸して行ったのよ。
貴方の名前出してたけど、知り合い?』
銃器の店の闇商人か。
怪しいけど味方だ。
ありがたく使わせて貰おう。
弾薬パックを20個購入。
1パックの中身が通常弾50発程度。
銃士隊に2つずつ配るぞー。
「ふぃー、やべかった」
「残り2個3個だったもんね」
銃士隊の子供達。
弾薬が手に入り、一安心。
矢束、太矢束は植物魔法から自作。
通信終了。と待っていたかの様に通信。
イーディス公主から状況の問い合わせ。
デルフィアンヌから安否確認。
『何かキノコ雲上がってたけど、何?
まさか核じゃないでしょうね?』
『ちょっとー。
私が話してるんだけどー』
落ち着け。いっぺんに聞くな。
順を追って話すから。
まず状況。戦線を離れて休憩中。
生存は、うちの子、花人達も。
近衛隊まで全員生きてる。
村人は子供4人を含む犠牲が出た。
『ティルアは無事?
カリマ、マルカ?』
「アンヌじゃん。
うちらは生きてるよー」
村の子と聞いて、アンヌが心配。
ティルア達、いつ仲良くなったんだか。
キノコ雲は燃料気化爆発。
放射線は無い。
今度詳しく説明してやる。
首都側は今、近寄らん方が良いという。
魔王軍と討伐軍が激しく交戦開始。
負けそうにも無いが激戦中。
時間を潰して来いと。
分かった。
野営できる場所を探そう。
丘の上から見回す。
北西に村落。
人気は無いが、廃墟か。
それと北方向。
何やら鎧と騎馬の戦列が……
前へ
/トップへ
/次へ
|