黒鷲の旅団
11日目(10)停戦破棄だよリュドミラちゃん

 探知、解析魔法。確信を得た。
 丘から見えた鎧の戦列。
 シュテルン公国軍の尖兵だ。
 大方、停戦期間終了。
 時間と共に雪崩れ込むつもりだろう。

 気付かれない様に……と、遅かった。
 食事の支度、上る煙。
 見られて気付かれた様だ。
 兵士1個小隊が向かって来る。
 斥候役だろう。

 子供達が武器を手に取る。
 待て。撃つな。
 向こうは突撃態勢じゃない。
 会話で済むなら、その方が良い。

「お、う、撃つなよー?」

「ほとんど女子供だな。
 騎兵も居るのか」

「お前達は何者だ。
 こんな所で何をしている」

 兵士達に素性を聞かれる。
 そいつはこちらが聞きたいが。
 俺達は、近くの村に雇われた傭兵だ。
 魔王軍の襲撃で村は壊滅した。
 今は難民を連れて首都を目指している。

 兵士達、ざわざわ、がやがや。

 で、そちらは外交の使者と護衛か?
 指揮官に取り次いで欲しいんだが。

 兵士達、ごにょごにょ、もそもそ。

 やがて兵士達、本陣の方に走って行く。
 そのまま待てと言われるが。
 どの道、すぐには動けん。

「あいつら絶対、キシューする気だよ」
「テーセンハキって奴だね」

 カーチャとティルアがボソボソ。
 お前さんら、難しい言葉を知ってるな。

 停戦破棄。
 もしくはギリギリ失効を待って奇襲。
 連中の思惑は、そんな所だろう。

 が、それを指差し確認しては。
 追い込んでは危険だ。
 知られたからには、と口封じ。
 かえって襲って来るかも知れん。

 探知、空間、解析、演算魔法。集計。
 相手方の人数は5百を越えている。
 こっちは非戦闘員も入れて60人程度。
 まともに戦って勝てる状況じゃない。

 ここは気付かぬフリをしてやり過ごす。
 公主様には後で通信、警戒を促そう。

 と、絢爛な鎧を纏った騎士が数人。
 指揮官と供回りといった所か。

 取り巻きから頭が高いと言われるが。
 俺が膝を折るより早く。
 指揮官が馬を降りて駆けて来る。
 兜を脱ぐとリュドミラさんだった。

「ああ……ああ!
 会いたかった……!」

 唐突に抱き付いて来て。
 しかし耳元で、

「間が悪いですううぅ……」

 渋い顔。爪を立てて。
 至極不満げに言われてしまった。

 配下には俺を恩人だと紹介しつつ。
 リュドミラさん。
 内密な話がしたいと言う。
 天幕に招こうとする。
 しかし護衛がそれを許さない。

 お互い任務中の様だ。
 内容については触れるまい。
 後で手紙でも書くよ。

 リュドミラ達が本陣に戻る。
 天幕に入るのを狙撃スコープで確認。
 転移魔法、センドストレージ。
 メモを書いてリュドミラに送った。

 首都挟撃が狙いなのは察している。
 こちらには追撃する戦力が無い。
 ただ、公主から聞かれたら隠し切れん。
 挟撃はともかく、奇襲は難しい。
 留意しておいて欲しい。

 それから少しして。
 シュテルン公国軍は進行開始。
 進路は東。東か。
 南東の首都に直進せず、東。
 本体との連携を図ると見た。

 思わぬ足止めを受けてしまった。
 ひとまず丘の下、村落跡を目指す。
 廃墟だが、野ざらしよりマシだろう。
 幾らか守り易いと思う。

 植物魔法でバリケード。
 村に囲いを作る。
 あとは使えそうな物が残ってないか。

「こちらでキャンプですの?
 わたくしも混ぜて頂けますかしら?」

 魔人ブランディエーヌ。
 いつの間に。
 探知には反応が無かった。

「遁甲魔法ですわ! 良いでしょう?
 見破るには看破魔法が必要ですの!」

 そ……そうか。えーと?
 説明ありがとう。参考になった。
 どういたしまして、とブラン。
 楽しそうに笑う。

 お1人か? 妹達は?
 首都攻略を果たせず、本隊は撤収。
 ただ帰るのもツマランからと?
 こっちにチョッカイを出しに。

「今度は、わたくしがお相手ですわ。
 お友達も連れて来ましてよ?」

 広範囲の転移魔法。
 加えて不死の魔法か。
 姿を現したのは死んだ村人達。
 不死者となって迫り来る。

 その中には……
 よりによって、ヨルクの姿も。



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