黒鷲の旅団
11日目(11)骸骨の方がマシでした
「助けて……嫌だ、死にたくない……」
「寒い、寒い、寒い……」
「お兄ちゃん……お姉ちゃん……」
ゾンビとして完成度でも高いのか。
不死者となった村人達に知性が残っている。
口々に、助けを求めて迫って来る。
「嫌あああああ!
お父さん! お母さんっ!」
「ばっ、バカやろ!
前に出るな!」
「しっかりしろ、ポーラ!
捕まったら死ぬぞ!」
錯乱したポーラ。
グレンとユーリが守っているが。
その2人だって顔面蒼白だ。
イヴェッタやテレサ。
怯えて歯を鳴らしている。
アウドラは、これは夢だを繰り返して。
マイナさんは神よと祈るばかり。
「うわあああ!
止めろ、止めろおおお!」
旧友達に足を掴まれたのか。
農夫ジョエルが不死者の海に飲まれた。
そしてすぐまた不死者になる。
起き上がって来る。
同じく引き込まれ掛けたレイニさん。
寸での所で引っ張り上げる。
……迎え討とう。
みんな苦しんでいる様に見える。
苦しんでいるなら解放しないと。
サンドラが生唾を飲み込む。
ジルケが無言で頷いた。
戦意があるのは。
義務感を胸に立ち残る近衛隊と。
うちの子、被差別者の子供達。
しかして、魔人ブランディエーヌ。
キョトンとした顔で尋ねて来る。
「どうして皆さま。
そう怖いお顔をしてらっしゃるの?
喜んで頂けると思いましたのに」
ふざけるな!とレイニが吠える。
身内を、死者を弄ばれてた。
怒らないはずが無いだろう!と。
近衛隊が剣を抜く。
子供達が弓弩を向ける。
「え……えっ?」
ブランディエーヌ。
戸惑いの色を浮かべ……
あー、ちょっと待て。
この女、本気か。
本気で分からないのだろうか。
魔王の娘として教育された。
人間の常識なんて……
子供達に弓を下ろさせる。
前に出て説明する。
多分これは、文化と風習の違いだ。
人間が魔人がどうこうじゃない。
ここらの一般人は。こう思う。
死者は静かに眠らせてやって欲しい。
仲良くなりたいつもりだとして。
これは彼らを傷つけている。
「そ、そんな……え。
わたくし、どうしたら」
ブラン曰く。
一度不死者になったら術を解けない。
神職。シスター・マイナ。
昇天させる術とか無いか?
彼女は静かに頷いて。
……あるのか。
除霊の奇跡、お願いします。
ブランは不死者達を抑えてくれ。
それは出来るな?
マイナが祈りを捧げる。
浄化の光が不死者を焼く。
苦痛の呻き、慟哭が大気を震わせる。
「ああ、ダメ……ダメです。
怖い……寒い……!」
2人ばかり除霊して、限界。
マイナは耐え切れずに蹲ってしまう。
不死者の苦痛に晒された。
何か同調してしまうのだろうか。
俺も手伝えないか。
奇跡は無理だが魔法は?
神聖、浄化を連携。
除霊魔法エクソシズム生成。
早速習得、試してみると。
確かに反動が酷い。
不死者の苦痛が伝わって来る。
相手にもダメージがあるらしく。
アモスが、モーソンが呻く。
苦痛の表情を浮かべて倒れた。
それでも、解き放ってくれと。
縋って来るリンダやレスター。
解き放ってやる。
解き放ってやるけれども。
もう少し、何とかならないのか。
もっと合成魔法を模索する。
ダメージで消し去るんじゃダメだ。
非業の死を遂げた魂を鎮めるには。
神聖、浄化、治癒、鎮痛。
鎮静、陶酔、精神。
鎮魂魔法フューネラル。
温かな光が不死者を包み込む。
頼む。どうか安らかに眠ってくれ。
「ああ、温かい……
これでやっと眠れる」
「シスター、どうか謝らせて」
「おチビちゃん達。
冷たくして、ごめんな……」
「元気でな、ポーラ。
好き嫌いするんじゃないぞ」
「レイニさん、マイナさん。
どうか子供達を頼む……」
口々に、村人達。
別れを告げて消えていく。
「お姉ちゃん、おじちゃん。
……ありがとう」
最後にヨルクが微笑んで。
光の中に消えて行って。
ジルケが泣き崩れた。
声にならない声を上げる。
膝を付くブランディエーヌ。
目に涙。感じ入る所はあったか。
弄んだつもりは無かった。
人間に、文化や何かに興味があった。
仲良くしたかった。
再会させれば喜んでくれると思った。
しかしそれは、マズいやり方で。
死んだ者達を更に苦しめてしまった。
村人達はブランディエーヌを許せない。
ただ、ジルケとヨルク。
幾らかマシなお別れが出来た。
その一点においては礼を言いたい。
意を決した様子でジルケが駆けて来る。
複雑そうな顔で、眉を吊り上げて。
何か言おうとして、言葉が出なくて。
棒を握り締め、何かを地面に書き殴る。
ただ短く、許す、と読めた。
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