黒鷲の旅団
11日目(13)祝勝と献杯

『魔王軍討伐大作成、成功!
 みんな、ありがとぉ!
 大好きだゾー!』

 現実側からゲーム内ブカレストについて。
 配信されている情報を探した。
 イーディス公主を中心に、戦勝パレード。
 動画の撮影者、名前はヴィヴィッド。
 どうやら一昨日のホッコリ動画の人らしい。

 騎兵隊を中心にしたパレード。
 ランスロットやサナトス。
 イェルマイン達の姿もある。
 騎兵の後からは歩兵。
 統一感の無い装備は冒険者だろう。
 バリー、パラディオン、ブレイドレイド。

 レグハルトは……居ないな。
 まだ思い悩んでいるか。
 それともパレードそっちのけ。
 どこかで戦いに明け暮れているか。

 動画を眺めていたら通信が来た。
 イーディスさん本人。
 曰く、領地が足りんかも知れんと。
 サポート体制が好評。
 希望者が予想を上回ったという。

 その、領地の話は置いといて。
 俺の事も表彰したい。
 一度城に顔を出せと。

 魔王軍討伐は不参加だが。
 名目は特別功労賞。
 村人の救出と魔人姉妹の足止め。
 推薦者は騎士団長と近衛兵長、魔人から。
 魔人ベレンジェリエ? 何、そっちか?

『あんたが魔族じゃないのが残念だって。
 何か気に入られた?』

 ……かも知れない。

 丁度メールが来た。
 NPCからプレイヤー宛てにメール。
 偽造異世界にしては手が込んでるな。

 曰く、俺が人間種であるのが甚だ遺憾。
 根絶派の軍略家として評価。
 魔族なら配下に欲しかった。
 次は籠城戦ではなく野戦が見たいそうな。

 推薦は、俺の格を上げたい。
 少しでも指揮権を与えようという事か。
 あんまり再戦したくないんだが。
 兵の質はともかく将。
 レベルが違い過ぎる。
 一騎打ちになった途端に死ぬ。
 間違いなく。

 一応は退けた、アンヌの妹。
 デルフィエンヌだったか。
 あいつにしたって、驚いただけ。
 大した外傷は無かった。

 バーストレーザー。
 障壁魔法で阻まれていたと思われる。
 防御無視ダメージという事だったが。
 届かなければ意味が無い。

 当面は、直接戦わない。
 これを前提にやり過ごすしかない。

 そう言えば、野戦が見たいとな。
 根絶派でも人類検証計画の遂行?
 何か義務付けられているのか。
 その傾向に付け入ると良いんだが。

「あーあ……いーなぁー……」
「むぅ……間に合わなかった」

 妹のフィロ、同僚ヴィルヘルミーナ。
 パレード動画を横目。
 不参加を残念がっている。

 フィロは大商人のお嬢様設定。
 まだ準備不足。遠出が出来ない。

 ヴィルの現在地はスイス。
 内乱に巻き込まれている様だ。
 ザンクト・ゴッドハルト峠。
 関所を越えられずに居る。

 スイス内乱。
 14世紀の独立戦争の再現か。
 いや、地理的な問題か。
 似た様な事が起こり易いのだろうか。

 現在、峠の関所。
 農民反乱軍が制圧しており。
 シュテルンが鎮圧部隊を派遣。
 これを攻めている。

 ヴィルが居るのは峠の北側。
 反乱軍遊撃部隊として飛び入り参戦。
 敵将を1人狙撃。負傷させたらしい。
 シュテルンの貴族で。
 聞いた名前がマクシミリアン。

 あのマクシミリアンだろうか。
 ディートリッヒと一緒に攻めて来た奴。
 こちら側のシュテルン軍は引き上げたが。
 あいつの負傷、敗戦。
 こちらにも関係があったかも知れない。

 さて、夜も更けて来ている。
 他人の部屋でダラダラしているでない。
 妹達を自室へ帰す。

 端末情報で近隣の情勢を確認。
 企業間抗争も戦線は遠い。
 別段不利でもない。
 酒を煽る程度の余裕はあるだろうか。

『ご主人……』

 ブラウザの中のアンゼリシア。
 の隣に、ベゴニエッタ。
 ポインセティナも。
 とうとうページを越えて移動し始めた?
 大層な自由っぷりだが。
 3人の手にはグラスと酒瓶があった。

 何だ、付き合ってくれるのか。
 寂しそうにエッタが頷く。

 こいつは乾杯じゃない。
 献杯だ。弔い酒。

 散っていった村人達に。
 犠牲になった村の子供達に。
 リンダ、レスター、エーベル。
 そして、ヨルクに。

 冥福を祈り、献杯。
 来世があるならまた会おう。

 華やかな戦勝パレードの裏側。
 戦争の犠牲者か……



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