黒鷲の旅団
12日目（１）ジルケ、声は無くとも

　一夜明けて進軍再開。
　戦闘らしい戦闘も無かった。
　無事に首都に到着した。

　まずバロンさん、セレステリアさん達。
　公主様に報告する為に離脱。

　保護した２名。
　ルアンヌさん、デュプレーさん。
　近衛隊について行く。

　フレスさん達は魔女協会へ。
　無事の帰還を知らせに飛んで行った。

　あとは帰る村の無くなった村人達。
　神聖教会の庇護を求める様だ。
　村長代理ゼールバッハが引率して行く。

「えー、じゃあ、マルカ達とはお別れー？」
「お、俺も達も一緒に……ダメですか？」

　ポーラやグレン。
　村の少年少女は目が泳ぐ。
　そもそも戦わせずに済むのであれば。
　それに越した事は無い。

　しかし亜人種は事情が違う。
　神聖教会お墨付きの差別が付いて回る。

　マイナさん、レイニさんからも説明。
　神聖教会の教義にある。
　神は人間を、神に似せて作った。
　だから、人間は神に次いで尊い。
　亜人はその下、家畜同然。
　そう解釈する人間種が少なからず居る。

　そこに亜人種が入って行ったなら。
　どうしても差別に触れる事になる。
　住み分けでも何でもしないとな。

　一旦お別れという事で。
　簡易の卒業式をしよう。
　戦いに慣れて来た子の昇進を行う。

　将来、自分で希望して。
　あるいは必要に迫られて。
　兵隊や冒険者になるかも知れん。
　そんな時、経験者である。
　戦った事がある。
　これが１つの売りになる。

　卒業組。イヴェッタ、ポーラ。
　テレサ、ロジーナ。
　以上４名を正規弓兵とする。

　アウドラ、ジルケは正規銃士。
　グレン、ユーリを正規弩兵となる。

　みんな、よく生き残ってくれた。
　もう新兵じゃなくて経験者だ。
　胸を張って良い。

　持たせた装備も、そのまま贈る。
　使っても良いし売って路銀にしても。
　ああ、狩りをするなら武器も使うか。

　落ち着いたらまた会おう、という事で。
　村人達は神聖教会の西区へ。
　俺達は東区へ。
　魔女協会に顔を出したい。

　足を進めようとすると背後に気配。
　振り返れば、ジルケ？
　レイニさんと行かないのか？

　ジルケは口をパクパク……どうした。

　マイナさんが駆けて来る。
　心配顔で説明する。

　ずっと喋ろうとしている様だが。
　何故だか喋れないのだと。
　教会の奇跡で治る……か、分からんのか。

　医療、診察スキル、解析魔法を併用。
　症状は……心因性失声症？　重病だな。
　命に別状は無くとも、生活に支障が出る。

　心因性。ジルケがこうなった理由。
　ヨルクが死んだ……
　その責任の一端は俺にある。
　俺にも手助けをする義務があるだろう。

　しかし一方で、声。
　悲鳴すら上げられない状態。
　戦場を連れ回すには不安がある。

　えー……あー……まず、本人は。
　本人としてはどうしたい？

　教会に残って大人しく……
　首を横に振る。嫌なのか。

　レイニさんについて、修業。
　……も、ダメ？

　ジルケ、ぐっ！と銃を掲げて見せる。
　銃が気に入った？
　こくりと首肯。もっと覚えたいと。

「ジルケはヨルクのカタキを取りたいんだよ」

　姉のアウドラが言う。
　カタキ……魔人？
　ジルケは首を横に振る。
　ゴブリンの方か。

「どこ隊にするの？」
「７人目か」
「４・３にするとか」

　見ればユッタ達。
　もう連れて行く気になっている。

　まあ、亜人限定という決まりも無い。
　ゴブリン相手ぐらいなら良いだろうか。
　連れて行くとして。
　後は、どうフォローするか。

　私が付き添います、とマイナさん。
　しかし、義足が粗末なまま。
　まずは新しい義足を手配しないと。

　方針……まず、マイナさんの脚。
　ウェルベックの所で義足の手配を。
　ルーシャの義足を参考にして貰う。
　作成自体は可能の様だ。

「あっ、ご、ごめんね」
「い、いえ、そんな……」

　マイナさんの脚の寸法を測る折。
　ウェルベックの手が触れて。
　マイナさんがビクッとして。

　大の大人が２人してモジモジ。
　大丈夫か。しっかりしてくれ。
　マイナさんは男が怖いんだったか。
　測定だけ女子に頼むか？
　ルーシャやマリナが手伝ってくれる。

　マイナさんの脚。
　完成は午後になる見込み。

　待つ間、子供達と花人を魔女協会へ。
　リクエストは障壁魔法と反射魔法。
　それと速射発動方式だ。
　洞窟で見つけた新人花人２名。
　初級、治癒・通信魔法から。

　と、ジルケ。
　魔法習得は少し待ってくれ。
　授業の間、俺が魔法を探す。
　使えそうな魔法が無いか探してみる。

　マイナさんは魔法は……今回は辞退。
　まずはキチンと還俗したいらしい。
　聖職の身で魔法を使うのは〜云々。
　癒しの奇跡も治癒魔法も大差無いと思うが。
　法令順守のマイナさん。

　しかし、それも裏を返すならば。
　彼女も魔法を使いたいという事か。

　魔女協会受付で申請。
　授業は４級９名。３級18名。
　初級は３名でお願いします。