黒鷲の旅団
12日目(2)代替手段
「戻ったと思ったら、お勉強かい。
ハインちゃんは忙しいねえ」
大魔女レイヴンヒルトさん。
すいません。お邪魔します。
魔女協会の図書館で資料探しだ。
ジルケの失声症の治療方法。
あるいは意志疎通の代替手段を探す。
サンドラちゃんに加え。
レイヴン婆さん。門下の大魔女オリガ。
マリーヤ、エフゲニアも手伝ってくれる。
まず病名は『心因性失声症』だった。
『精神魔法大全』というタイトルから。
習得済みの魔法も並ぶが。
概要を細かく振り返りたい。
心因性なのだ。
心の傷を癒やせれば良いのだろうが。
忘却魔法……これは駄目だ。
失敗すると元に戻せない。
洗脳魔法で記憶を書き換えたという記述。
これも危険が過ぎるかな……
魅了、陶酔魔法からの多幸状態。
本能的な作用になる。
弟を亡くした悲しみを癒やしたいのだ。
これは、ちょっと違うかな。
代替手段の方も探そう。
精神感応。テレパス。
魔法だと、どういう表現になるんだ?
精神感応……官能魔法。これは違う。
念動魔法。物理的に動かしてどうする。
ついでだから貰っておくけど。
音響魔法。
人の声を再現するのは難しいか。
自白魔法。
いや、そもそも喋れんのだし。
読心魔法。
一方的に察知するだけでは……
「こ、ここ、これ!
これこれこれこれ!」
サンドラちゃんが詰め寄って来る。
落ち着け。何だって?
『通信魔法の歴史』から念話魔法。
思い浮かべた言葉を相手の脳内に投影する。
これだ! でかした!
「ああーっと、ハインリヒさん?」
「あ、ちょっ……
おおーい、どこ行くのー?」
フレスさん、フッケちゃんとすれ違う。
特許申請からS級が出た?
それも気になるが、今は念話魔法だ。
事情を話しつつ、練習場へ急ぐ。
授業の終わりに魔法習得の儀式。
丁度始めている所だった。
ジルケに念話魔法の本を……
っと、字が読めない様で
フレスさんが読み聞かせてくれる。
読み終えたら習得の儀式へ。
ジルケ実験。念話魔法。
頭の中で何か喋ってみよう。
『あー、えー……おー。
聞こえる? 聞こえる―?』
「聞こえた!」
「スゲェ!」
「ジルケちゃん喋った!」
皆の頭の中にジルケの声がした。
成功だ。これで意思疎通が出来る。
ハグし合って喜ぶ子供達。
ただ、魔力消費といった課題も残る。
どれぐらい喋ると魔力切れ、眠くなるのか。
ジルケは人間なので魔力量も低め。
魔力回復薬は多めに用意しないと、だな。
昼食まで自由時間とする。
ああーと、後になってしまったが。
家がある子は無事を知らせておいで。
通信魔法で声だけ飛ばしてあった様だが。
それでも姿を見た方が安心するだろう。
子供達を送り出して……
何だっけ。特許の件。
魔女達が駆け寄って来る。
「そうなんだよ!
聞いておくれよハインたん!」
「ついにうちの協会からS級魔法ですよ!」
燃料気化爆発魔法。
これが攻撃魔法Sクラスに認定。
『獄炎卿』の称号までついて来た。
炎・錬成系の魔法威力を強化。
ダメージ+10%の補正が付くのだと。
魔女協会でS級魔法の保持。
快挙だというのはなんとなく分かるが。
魔法界のバランスをも大きく変える?
「魔女の魔法は学問としては後発。
男性魔術師達の後塵を拝して来ました。
その歴史が今日、変わるかも知れません」
フレスさん熱い口調。
歴史って、そこまで一大事かい。
伝承料金は100万だという。
じゃあ、俺の取り分は30万で。
「いよっしゃあ、 神よ!
あんま信じてないけど!」
「ああぁ、今日だけは神よと言いたい!」
ゲンキン魔女ヘリヤとシャンタル。
露骨に喜ぶ。100万は上級魔女でも負担か。
フレスさんもお辞儀、普段より深々。
亜人種の子供達を守る。
魔女達の協力は不可欠だ。
こちらも力にもなりたい。
あと、お家賃の負い目もあるし。
Sクラス1件、魔女協会に70万。
これは受け取っておいてください。
他の特許は……と。まず取得の方。
除霊魔法は攻撃B。
しかし鎮魂魔法は多目的A?
整復魔法、治癒A。
空調魔法、生活C。
測量魔法、多目的B。
燃料魔法、多目的A。
と、今朝までの特許料は。
Aクラス23件、B49件、C11件。
金額も1005万と多い。
昨晩から間が無いハズだが。
イベントから人口移動の影響か。
特に人気なのは氷花、霧霜。
あと縫合、爆薬魔法だという。
新規の特許申請。
溶解魔法、圧殺魔法、窒息魔法。
申請としては申請するけど。
外部に広めるのは少し待って欲しい。
対処法も無いまま使われても困る。
魔女達は快諾してくれた。
さて、昼飯……の前に。
マイナさんはどうしたかな。
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