黒鷲の旅団
12日目(3)この手は届く為にあれ
西区、神聖教会本部へ。
マイナさんの行方を尋ねたのだが。
しかし来ていないと言われる。
……調べもせずに?
俺はまだ名前だけ。
特徴も何も言ってないんだが。
それで来ていないと断言する。
訪問者にいちいち名前を聞いてるのか?
朝から今まで一度も交代していないのか。
マイナさんが絶対に来ていないと断言。
その根拠は何だと。
問い詰める。
シドロモドロになる門衛2人。怪しい。
自白魔法コンフェス。改めて聞こう。
眼帯の女性が来なかったか。
門衛の1人が口を滑らせる。
「あのバカな女なら。
今頃、地下で取り調べ中だ。
亜人種に肩入れしてた。
異端審問官に目をつけられたのさ。
今頃、死んでるんじゃねぇかぁ?
冒険者ハインリヒに知られると面倒だ。
だから内緒だけどな」
もう1人が慌てて相方を小突くが。
事情は大体分かった。
精神、夢操、陶酔、洗脳魔法。
そのまま寝てろ。
寝てる2人を木陰に引っ張り込む。
転移魔法で鎧を引っぺがし……
汗臭い。洗浄、消臭魔法を掛けて装着。
解析魔法。こいつらの名前。
オベラートとバルハウス。覚えた。
読心魔法で挨拶の作法ぐらい探って行く。
教会内部に潜入する。
まずは探知、空間、解析魔法……
表の講堂は一般開放されている。
しかし地下への入り口は無さそうだ。
裏の建物に向かおう。
「おい、そこのお前。
持ち場を離れて何をしている。
なんてな?」
聖騎士ランスロット、
身構える俺に、彼は余裕で肩を竦める。
咎めるかと思いきや、そうでもない?
どっから見てた? 割と最初から。
変装して入って来たを見て。
何か面白そうだと思ったらしい。
「レアモノ盗みに来たなら成敗するんだが。
今度はスパイごっこかい?
事情があるなら聞かせてくれないか」
カシューさんが絡まない分には好意的な。
他に聞かれるとアレなんで。
少々小芝居をしても?
どうぞうどうぞとランスロット。
えー……コホン。
大変であります、ランスロット殿。
いや、笑うなって。
冒険者ハインリヒが現れたのであります。
先に、シスター・マイナ。
眼帯の女性が昼間に訪れていて。
それは見掛けた? 話が早い。
そのマイナという女性について。
訳あって還俗の手続きに来たんだが。
亜人種の子供に味方してる。
そのせいか異端審問官に捕まった。
地下で拷問を受けているらしい。
知らぬ仲でなく、助けたい。
が、殴り込みは本意じゃない。
協力してくれると助かるんだが。
「ま、ま……またか、アノヤロー!」
顔色を変えるランスロット。
怒り出して、疾走。
追い掛けて行くと、地下室がある。
異端審問官?らしき男、と。
教会所属の神殿騎士も数名。
怯えた顔の年若い女聖職者。
そして棘だらけの椅子の上。
血だらけで項垂れるマイナさん。
転移、すぐ隣へ。
診察スキル、解析魔法。
マイナさん、おい……マイナさん!
「子供、達を……
どうか、ご慈悲を……」
かすれた声。うわ言の様に繰り返す。
失血のせいか俺の事もよく見えていない。
転移。椅子から降ろす。
傷から溢れ出す血液。
治癒、治癒、収束治癒。
くそ、治りが悪い。
歪な拷問具で痛めつけられた傷。
治癒魔法がほとんど効かない。
縫合魔法が辛うじて繋いでくれる。
速射止血。連続治癒。
並行して縫合、造血。
縫合、鎮痛、鎮静、浄化、活力。
治癒、解毒、抵抗、防御……
「ああ、神よ……
愛しい人が、見えます……」
少し持ち直した様子のマイナさん。
まだ弱ってるな。
早く連れ帰ってやらないと。
しかし、神よ、と。
こんな目に遭っても信仰を貫く。
こんな敬虔な人を傷つけて。
恥ずかしいとは思わないのか。
「け、け、けしからん!
全く持ってケシカラン!
この様な魔性の女を助けるのか!
貴様、神に楯突くつもりだな!
この異教徒め!」
教会の権威だか何だか知らないが。
怒り出す異端審問官。
身売りをしたという事実にだけ目を向けて。
子供達の為にという献身は握り潰す。
亜人が人間と同等などと神を冒涜云々。
そんな奴は教会に置いておけないと言う。
こんな所、置いておかなくて結構だ。
魔女でも魔性でも、彼女は俺が貰って行く。
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