黒鷲の旅団
12日目(4)捕まって解放して
捕まって脱走して

「そうか、貴様だな!
 東の魔女達に肩入れしているとかいう……
 こっ、殺せ! 斬り捨ててしまえ!」

 神殿騎士達が剣を抜く。
 戸惑うランスロット。立場もあるだろう。
 ここまでで十分だ。下がってくれ。

「しかし……彼女は僕より強いぞ」

 彼女。神殿騎士団長アウローラ。
 解析。レベル800の化け物。
 取り巻きも300から500だと。

 とても勝てない。
 勝てないので、マイナさんに転移魔法。

「あ」
「ちょ」
「てめ」

 神殿騎士達が駆けるより早く。
 マイナさんの姿が消える。
 転送先は魔女協会の敷地の中だ。
 俺も飛びたかったのだが。
 残存魔力が足りんな……

 さて、どうするか。神殿騎士諸君。
 俺は神人だ。殺しても生き返る。
 時間の無駄でも殺しておくか?

「え、ええい……くそっ!」

 ゴスン。審問官のメイスで殴られる。
 鈍痛と共に意識が遠退いて行った。

 それから……どれだけ経った?
 意識が戻った時、俺は壁に繋がれていた。
 殺しても生き返る神人だ。
 対処として、捕縛は正しい。困るけど。

 魔力は戻っただろうか。
 転移魔法を試すのだが。
 転移魔法……は、発動しない。

 解析。鎖。違うな。室内の方か。
 転移無効化結界なるものが発生している。
 マイナさんは脱出出来たんだが。
 後から処置した、という事だろうかな。

 幸い、魔法全ては封じられていない。
 封じられているのは転移だけか?

 解錠魔法……効かない。
 解析魔法。ドア。弾かれる。
 義眼の簡易解析を試す。
 魔法反射結界との表示。
 破壊は難しいだろうか。

 照明魔法。灯りを。
 通信魔法。発動するが外へ通らない。

「た、助けに、来たんだけど……ごめん」

 不意に、鉄格子の隙間からトゥーリカ。
 聞けば鍵束が重くて持ち上がらないと。
 強化魔法第4位ハーキュライズ。
 これでどうかな……持ち上がる?

「ふんっ、ふんっぐ!
 なんっ、と、かあああぁー!」

 トゥーリカに鍵を開けて貰……
 ガッチャガッチャガッチャ。
 ちょ、おい、もうちょっと静かに。無理?

「だっ、脱走! ……ふにゃ」

 衛兵の対応より先。
 トゥーリカが鍵を外す方が早かった。
 デリンジャーに精神魔法付与、抜き撃ち。
 駆け付けた見張りを眠らせる。
 小口径で鎧越しだ。
 大した傷にはなっていないだろう。

 武器……取られてないな。
 ストレージ内の装備は手が出せないのか。
 こんな所は神人で良かったと思う。

 さて、鍵が開いた。お疲れさん。
 トゥーリカを胸ポケットに入れる。
 隠密・透明魔法。

 地上に上がると、屋外もまだ転移無効。
 敷地を出ない事には、か。

 探知……外は見張りだらけだ。
 しかしマーカーが全部赤でない。
 隠れて見ていると僧職らしいのが通る。
 マイナさんへの懲罰を疑問視する側?

 だが、そんな相手だとして。
 見つかったら騒ぎにはなる。
 全部避けて通るのは……うーん……

「ハインリヒの奴、逃げたって?」
「見張りは何をやってんだ」

 脱走は早々に知れ渡った様で。
 動き回る衛兵が多い。
 やり過ごすのがシンドイ。

 状況。トゥーリカが救出に来た。
 マイナさんも転送した。
 何かあったのは知れているだろう。
 魔女に子供らに、血の気の多いのも居る。
 早々に戻ってやらないと。
 何かトラブルを起こしかねない。

 起こしかねないが……焦ってもな。
 今更、流血沙汰は避けたい。

 裏門。見張りの兵を精神魔法で眠らせる。
 解錠魔法アンロック……開かない。
 ここにも結界かよ。
 空間、探知、解析。
 見張りは鍵を持っていない。

 正門は正門で、神殿騎士の姿もある。
 ガッチリ固められ、出るに出られん。
 一応は街中で、殺生は避けたい。
 そもそも、勝てるか怪しいし……

 と、イキナリ側面のドアが開いた。

「こちらへ……早く!」

 女? 敵ではないらしい。
 衛兵の気配も近い。
 一先ず連れ込まれるまま連れ込まれる。



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