黒鷲の旅団
12日目(5)大司教は白魔女様

「遠見の魔法で状況は見ていました。
 無茶をするものですね、神人よ」

 見るからに僧職といった井出達の女。
 しかし、遠見の……魔法だという。

 マイナさんから多少は聞いていたのだが。
 僧職と魔女では、魔法体系が違うという。

 神官僧侶らが使うのは、奇跡。
 神への祈りから生じる奇跡の力。

 魔女や魔法使いの魔法は、精霊の加護。
 あるいは魔法的な方陣。
 魔力を導く理論式による物だと。

 しかし、この女はハッキリ魔法と言った。
 僧職は『魔法』が使えないんじゃないのか?

「神人にしてはよく調べている。
 流石は霧霜卿といった所ですか。
 しかし時間もありません。
 道すがら説明しましょう」

 フード付きのマントを渡された。
 顔を隠し、彼女の後を行く。

 彼女の名はアルディス。
 女ながらに大司教。
 神聖教会ルーマニア支部統括。

 そして、かつて彼女は魔女だった。
 癒しと光の魔法を使う、白い魔女。
 魔女名はホークミリア。
 よもや、大魔女様か。

「そう、かの協会の大魔女。
 異名に鳥の名を冠します。
 ジズ、レイヴン、フリアエ。
 フッケバインなど」

 鳥。フレスさんはフレスヴェルグか。
 怖い奴じゃなかったっけ。
 本人は穏やかそうだが。

「師が過保護だったのもあります。
 強面の名前。
 避けて行く災いもありましょう」

 言いながら、アルディス。
 鍵を取り出した。
 講堂の教壇裏に差し込む。
 そんな所に扉。隠し扉。
 緊急用の避難通路だという。

 ホークの名を冠する白魔女様。
 どうして大司教に。

 人助けをして回る。
 その内に、白魔法と奇跡を混同された。
 自分も奇跡と偽る事を厭わなかった。
 市民の為、悪い魔女と対立した。
 神聖教会を助けたりもした。
 やがて準聖人に祭り上げられた。
 僧籍を得るに至る。

「魔法と奇跡、どうやら根幹は同じ。
 気付いた私を教会は放置しなかった。
 愛する人々を脅かされた。
 私は従うしかなかった」

 愛する人々。夫と子供が居たという。
 夫を殺され、仇討ちこそ果たした。
 しかし逃げ切れない。子供達を守りたい。
 やむなく庇護を求めた様だ。

「今の私はホークミリアではありません。
 大司教アルディスとして貴方を裁きます」

 俺を教壇に押し込みつつ。
 大司教は告げる。

「行き過ぎた懲罰から姉妹を救ってくれた。
 その事には感謝を。
 最後まで剣を抜かず。
 血を流さなかった事に賞賛を。
 しかして、騒ぎを起こした。
 我らを脅かしたのも事実。
 厳重注意をもって、放逐とします。
 さあ、お行きなさい」

 俺の後ろで扉が閉じる。
 鍵が掛けられる音がした。
 照明魔法を点火。講堂下の避難路を抜ける。
 内部は石造りの地下墓地、といった様相。
 風化した壁や扉を幾つか破壊。外を目指す。

「だ、旦那さん?
 どうしたんだい、そんな所で」

 行き着いた先は、川か。
 下層区の下水道末端。
 見上げればベラさんの姿。
 川を見下ろしていた。

「捕まったって聞いてたけど。
 無事だったんだね。
 みんなにも知らせとくよ」

 伝達は酒場方面をお願いする。
 子供達には俺から通信魔法。

『ふびょっ! おおおお兄しゃん!』
『無事だったんですね!』

 みんな口々に歓迎してくれた。
 マイナさんの容体は?
 傷は大丈夫そうか。
 精神的なダメージの方が心配かな。

 大魔女達が戦争だと息巻いているらしい。
 落ち着け。時期じゃないし、現実的でない。
 仕返しについては何か考える。
 まずはマイナさんの療養を頼む。

 神聖教会に一泡吹かせたい。
 一方で、流血沙汰は望まない……
 さて、どうするかな。



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