黒鷲の旅団
12日目(7)ぎょりーん!ではなく
「おっ、旦那!」
「無事か。捕まったと聞いたが」
フィールドに出た所。
イェルマイン隊の姿。
騎士団や近衛隊の姿もある。
物資全般が高騰している現在。
飼い葉を買うのも負担だろう。
騎兵の馬を引いて草原の上へ。
文字通り道草を食わせていた。
「医者のおっちゃんだ!」
「イェンナ達だ! おーい!」
少年兵、エリック達。
馬を走らせ寄って来る。
話して来て良いかと、イェンナ。
良いよ。俺も騎士団長達と少し話す。
騎士団長クロイツァーより公主の近況。
叙勲式や書類管理に追われている様だ。
職務上、俺の出頭は急がなくて良さげ。
しかし一方で、気疲れしている様子。
顔ぐらい見せた方が良いかも知れん。
邪魔をしない程度にでも。
街の状況は。
物資が足りないのは聞いているが。
治安も悪化している様だ。
配給物資の奪い合いが起きている。
馬の食事が済んだら、巡察に戻ると。
治安が悪い、か。子供達も心配だな。
日が暮れてからの外出は控えさせよう。
振り返ると子供達は散開状態。
サンドラとツェンタが駆けて来る。
採取した薬草を見せる。
お喋りしつつ、採集を始めていた。
「薬草あった。
てゆーか、オオカミ居ない」
「探知してみたんだけど……」
俺も探知に加わってみるのだが。
獲物、居ないなあ。
食べられる獣や魔物が見当たらない。
冒険者だろうか。
ギルドに食料集めの依頼が出ていた。
食料、狩り尽くされてしまっか。
イェルマイン麾下。
お姉さん騎兵隊を斥候に出す。
騎兵の機動力で広く探して貰おう。
報告を待つ。
その間、引き続き薬草採集を続ける。
魔力薬の材料も農耕魔法の元。
ひいては食料の元だ。
あとキノコとか。周囲に川もあるな。
行って魚を狙うのも良いだろう。
「へへっ、川まで競争っ!」
「あー、ズルい! 待ってー!」
カーチャが駆け出しカリマが追う。
と、ノイエが変身。
堕天使の翼を広げた。
「行くよー」
ノイエ、カリマを抱っこして飛翔。
カーチャをぐんぐん追い上げる。
そのまま追い抜いて行く。
「おっ先ぃ〜♪」
「ぎゃー! そっちのがズルいぞー!」
「きゃはははは!」
伸び伸びしてるなあ……
堕天使の姿を気にしないノイエ。
同じ様に変身する仲間が居る。
変身しても嫌がらない仲間が居る。
彼女は今、恵まれた状態にある。
「ああっ、ちょっと!
勝手に行っちゃ!」
「ユッタさん、追いましょう!」
「え、えっ!
わあああ!?」
レーネも変身。
背中にコウモリ状の翼を広げる。
ユッタを抱えて飛翔。
追って行ってしまう。
フェドラ、マルカも続く様だ。
「あっ、つ、連れ戻そうか?」
ふと思い立って振り返るティルア。
聞いてビクッと止まったマルカ。
背中にヤベェと書いてある感。
大丈夫。空挺部隊は先行。
川の辺りで集合してくれ。
「いいなー」
「ずるいー」
「私も飛びたい―」
残った子供達、ちょっと不満げ。
感想に嫌悪・忌避は少ない。
憧れもあって微笑ましいが。
残った子には、折角だ。
一足先に新しい陣形でも教えよう。
混成弓弩銃士隊、魚鱗陣形を組みます。
「ギョリンって何?」
「分かった! ぎょりーんって!
こう、ぎょりーん!」
首を傾げるエメリナと。
イェンナ、ギョリーンっと目を見開く。
違うぞー。面白いけど。
魚鱗。魚の鱗の事だ。
歩兵隊は俺と魚鱗陣形。
空挺部隊には通信。
お喋りに夢中で索敵を怠るなよ?
何かあったら通信魔法で知らせてくれ。
はーい、と賑やかな返事。
ここら辺は素直でよろしい。
「旦那んトコ。
ハーレムってより女学校っすなあ」
ほのぼのとイェルマイン。
うちの子達を眺めて感嘆。
ハーレムて……
うちの子達は基本子供。
大きい子でも10代半ばだろう。
健全な恋愛対象にしても若過ぎる。
大人びた子も居るが。
それも苦境に追い込まれての事だ。
まだまだ甘えさせてやれると良いが。
ともあれ。
カーチャやノイエ達を追いかけよう。
あっちにも魚鱗陣形を教えないと。
またズルいー、が始まってしまう。
イェルマグの所の子供達と隊列を組む。
空挺部隊を追って河川部に向かう。
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