黒鷲の旅団
12日目(9)毒の一刺
「デュオ君、またねぇー」
「あ……ああ、うん!」
フラれたばかりの相手。
でも手を振られると喜んでしまう。
デュオニス少年。
まだまだ諦めていない様子。
子供ながらに半魔人フェドラ。
魔性っぽい物を感じてしまう。
それはそうと、うちの子供達。
先に魔女協会へ向かわせた。
冒険者ダニエルの件が解決していない。
今暫くは距離を取らせておきたい。
「モヒカンとスキンヘッド。
あとリーゼントのアイツらなー」
「ペト姉ちゃんのカタキなんだろ?
許せねーよ」
エリックとアレン。
ペトリナに同情してくれるのは嬉しいが。
間違っても手を出すなよ?
俺がやるんだから。
というか、ペト姉ちゃん。
ペトリナは尊敬の対象らしい。
遭難時、助けに来て飛び出した。
庇う様に死霊の雷撃魔法を受けた彼女。
優しくて勇気があるお姉さん。
そんな風に思われている様だ。
しかし、お姉さんかー……
エリックより1個下なんだが。
「えっ、う、嘘だぁー」
「背が低いだけかと思ってた……」
俺も解析魔法で見るまで気付かなかった。
亜人の子と人間の子の混成部隊。
個性、種族特性、体格差。
これが実年齢差と混ざり、分かり難い。
フェド姉とマルカは同年齢。
数か月上の姉貴分ではあるけど。
1歳違わない。
レー姉ちゃんはユッタの1つ下。
フェドラ、マルカとタメ。
小柄なユッタが年長者。
一目じゃピンと来ない。
しかしそれ以上に。
デルフィアンヌの年齢が100歳越え。
一見するとユッタと同じぐらい。
長命種がどうとか、ワケ分からん。
レーネはユッタに『さん』付けする。
ペトリナは『ペトちゃん』と。
把握しているんだろうか。
単に解析で見ているのかな。
コツがあるなら聞いてみたいが。
ともあれ、冒険者ギルドへ。
食料調達の難度上昇を報告する。
報酬を吊り上げた所で、物が無い。
まだまだ厳しい状況が続きそうだ。
「そ、そうか……
よく知らせてくれたね」
冒険者ギルド支部長ウェストン。
歓迎と落胆の混ざった顔。
魔王軍の撤退後。
街道の往来は復旧しているが。
収穫して運び出して、だ。
届くまでに時間が掛かる。
市民が飢えた状態は続くだろう。
それはそれとして。
来たついでに等級申請を。
ついでなんて言うと怒られそうだが。
それでも俺個人からしたら、ついでだ。
昇進するとマルカとかが喜ぶ。
申請しなくはないけれども。
俺とサンドラが銀等級に昇進。
赤銅等級に昇進。ユッタ、イェンナ。
トゥーリカ、マリナ、フェドラ。
レーネ、ペトリナ。
マルカ、ティルア、カリマ。
銅等級に昇進。カーチャ、ノイエ。
ツェンタ、アイリス。
テルーザ、エメリナ。
フレヤ、ジェマ、ルーシャまで。
昨今異例の昇進速度だと言うが。
最前線勤務が続いた。
何かと肝を冷やしている。
階級でも上がらねば割に合わない。
それぞれの階級証を用意して貰う。
子供達の本人確認は免除してくれた。
どうやら支部長ウェストン。
彼は彼で気に病んでいるらしい。
そもそも冒険者。
荒くれ者といった一面もある。
ギルド長、支部長、幹部職。
普通は実績ある冒険者が就く。
知識と経験、そして腕っぷしが要る。
そうでなければ、誰か暴走した時。
力で抑制出来ないからだ。
しかし支部長ウェストン。
彼は戦えるタイプには見えない。
元はギルド本部の文官だと言う。
人材不足で派遣された。
戦力でない。それ故に。
中級以上の冒険者からナメられている。
ダニエルを止められない一因か。
ウェストン個人を恨んでも仕方ないが。
この状況が恨めしくはあるな……
「よ〜お、ガキ使いじゃねえか。
どんな手を使ったんだ? ええ?」
後ろから問題のダニエル一行が来訪。
ダニエルがニヤニヤ。
どんな手とは何の手だ?
「とぼけんじゃねえ。銀等級だ。
ガキども使って裏で接待したんだろ?
どうなんだ、え。支部長様よぉ。
こいつのガキどもとヤったんだろ?
如何にも童貞って顔してるモンなあ。
もう童貞じゃねえか? ぎゃはは!」
ダニエルが煽る。
ウェストンが複雑そうな顔。
ダニエルを知る者は信じないだろうが。
通りすがりに聞かれて悪評が立ってもな。
こいつがダニエルと知れる。
眉を吊り上げるデュオニス達。
マグダレーナ、イェルマインまで。
手を出すのは止めとけ。
今度、暗殺教団にでも相談してみよう。
手下のカリオンなら潰す当てがある。
「え、え、俺?
な、何で……ちょ、待っ!」
「は、はは。
ハッタリだぜ。ビビんなよ……」
狼狽えるカリオン。
半信半疑のダニエル達。
連中を尻目に退出する。
イェルマイン達には話しておこう。
確かにハッタリはハッタリなんだがな。
1人だけ名指しした。
された奴とそれ以外。
2つの間に温度差が出来た。
これを起点に3人組の分裂を狙う。
策士だな!とテオドール少年。
戦略は少々門外漢だが。
戦術レベルの搦め手までは使うさ。
この毒が回るまで、連中について。
今少し様子を見るとしよう。
動きが無ければ、もう一刺し考える。
さて、夕食は東区の酒場へ。
そんな折、サンドラから通信。
早く来て欲しいと……俺に客?