黒鷲の旅団
12日目(10)荒れ模様と置き去りの少女
「ああああん!
ママ、ママああああ!」
魔女協会に着くと鳴き声。
少し手前から聞こえていたが。
泣いているのは女の子。
受付へ。どういう状況だ?
頬を腫らしたユッタ。
目元に痣を作ったヘルヴィ。
2人の間にデルフィアンヌ。
しかしアンヌは2人の間。
仲裁している様にも見える。
あと、泣いてる女の子がもう1人。
こちらは知らない子の様だが。
「痛いよ。歯が折れた」
「何よ。あんたが悪いんだから」
「やーめーなーさーいー!」
あー、と……?
泣いている子は泣いているだけか?
魔女達に頼んで落ち着かせて貰う。
怪我人から順に話そう。
ユッタは奥歯が1本折れていた。
まずは治せるか……整復魔法を試そう。
歯も骨だ。繋がった。
噛み合わせ、おかしな所は無いか?
「うん……大丈夫」
次はヘルヴィの痣に治癒魔法。
ケンカした様に見える。何があった。
「こいつがイキナリ!」
「だって! お兄さんを貰ってくって!」
落ち着け。鎮静魔法。
ユッタ、俺の指導が悪かったな。
戦う以外も教えるべきだった。
相手の見極め方。交渉。
それからヘルヴィ達の情報もだ。
ヘルヴィとヘレヴィ。
双子の少女暗殺者。
俺よりも凄腕だ。
本気を出されたら止める自信が無い。
それでも、ユッタ。
困っている子を放っておけない。
仲間に入れようと言ったかも知れん。
後になってケンカして。
大怪我になるのが怖かった。
安易に近付けまいと伏せた。
情報を伏せていたのが裏目に出た。
お前に情報不足だったのは俺のせいだ。
ごめんな。許してくれるか。
「そ、そんなの。
私が、良くなかった。多分……」
ヘルヴィは、手加減してくれた。
ありがとうな。
もし本気を出していたなら。
ユッタはもっと大怪我していただろう。
どういう子を連れているか。
こちらも先に言っておけば良かった。
差別を受けている亜人や半亜人。
貧困層の子供達。
俺以外、なかなか頼れる相手が居ない。
そこへ、連れて行かれると言われた。
追い詰められたと思ったんだろう。
「そんなの、私達だって同じだわ。
頼れる人なんて、お兄さんしか居ないの」
そうだよ。それぞれに助けが要る。
それぞれ助けるから。
だから、ひとまず休戦してくれないか。
「ううー……」
ヘルヴィは難しい顔をして、壁際。
双子の片割れヘレヴィに駆け寄る。
「あいつ気に入らないわ、ヘレヴィ」
「得意げに連れてくとか言うからだろー?」
ヘルヴィの不満にイェンナが口を挟む。
落ち着いて。でも、そうだ。
拳よりも言葉を交わそう。
それと、もう1人。
泣いていた子はどうした。
「ちょっとこれは……うーん?」
見てくれていたヘリヤ。
羊皮紙の切れ端を差し出す。
泣いていた子の所持品らしい。
内容に目を通して……
なるほど、うーん、だな。
名前はフィリッパです。
幸せにしてやってください、だと。
女の子、フィリッパ。
落ち着かせながら話を聞く。
両親には、何て?
魔女協会の前で待つ様に言われたらしい。
羊皮紙は誰か来たら見せる様にと。
いつまでも戻って来ない両親。
段々不安になって、羊皮紙を広げて。
ようやく事態が飲み込めてきた。
自分は両親に捨てられたのだ、と。
言いながら、また泣き出してしまう。
ああー、分かった。大丈夫だ。
両親を探す。探す方法を考えよう。
「あーもー、止めなさいってば!」
振り返ると、マルカとヘルヴィ。
取っ組み合いになっていた。
アンヌがまた仲裁に入ってくれる。
すまん。助かるよ。
お前も用事があって来たんだろうに。
落ち着いて。マルカ、手を出さない。
ヘルヴィも話は聞くから。
まずはメシだ。夕食にしよう。
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