黒鷲の旅団
12日目（11）まだ少し遠くに

「え、あ……大丈夫……
　じゃ、ないかも」

　夕食。ユッタの食が進まない。
　よくよく問い詰める。
　診察。噛み合わせに異常。
　整復魔法で繋ぎ直した奥歯だな。
　言い出し難かった様だ。
　自分が悪いせいだからなどと。

「……ごめんなさい」

　悪い事をしていない。
　謝らなくて良い。

　慕われている一方、まだ距離がある。
　もっと頼って、甘えてくれて良い。
　面倒を見ると言った。
　もう家族みたいな物なのだから。

　詳しく診察する。
　骨の細胞が増幅した。
　余計な突起が出来てしまっている。
　噛み合わせると当たって少し痛いのか。

　再度、整復魔法……では治らない。
　削る……いや、怖いな。
　えー、待て。どうする。

　コールストレージから骨。
　骨系素材のアイテム。
　こいつを実験台に、新魔法を探す。

　思った形にしたい。
　記録魔法と転写魔法。

　骨、人体に干渉する。
　整復魔法に治癒魔法。

　削ったり塞いだり。
　錬成魔法と分解魔法。

　なかなか上手く行かない。
　大丈夫だよとユッタは言うが。
　ちゃんと食べられる様にしたい。
　すくすく育って欲しい。

　形を変える……何か無いか。
　所持魔法のリストをオープン。
　魔女達にも意見を求める。
　こいつはどうだいとレイヴン婆さん。
　変身魔法。そんなのも持ってたな。

　並列、空間・解析。
　連続並列、記録・転写。
　速射並列、整復・変身。
　時限発動式、治癒で締める。

　生成は、整形……違う。形成？
　形成外科魔法リコンストラクト。
　欠損部を正常な形に戻すらしい。

　何度か骨素材に試し、安全を確認。
　悪化はしないと思われる。
　ユッタに適用。今度はどうだろう。

「……あれ？」

　どこかおかしい？

「あ、ううん？
　他のトコも治った、みたいな」

　前より噛み合わせが良くなったらしい。
　思わぬ副産物、かな。
　何にせよ、治って良かった。

「ふん、自業自得よ。
　掛かって来るから」

　ヘルヴィ、口を尖らせるが。
　わざわざ自分は悪くないと口に出す。
　気に病んでいると言ってる様な物だ。
　双子の間では気遣う。
　根が悪い子では無いのだろう。

「あ、謝らないからね」
「良いよ。負けないもん」

　ぷいっと顔を背けるユッタとヘルヴィ。
　２人が打ち解けるのはまだまだ先か。
　ヘレヴィも、頼むよ。
　揉めたら止めてやってくれな？

「お兄さんは、私達の区別がつくの？」
「あっ、区別つくよー。私も分かった」
「声が違うんだよな」

　ヘレヴィの問いにエメリナとティルア。
　声のトーンに差がある。
　ヘレヴィはヘルヴィより若干低い。
　この前、感染症で喉を傷めたのだろうか。

　簡易解析。喉に若干の炎症。
　まあ回復に向かっている様でもある。
　また区別し難くなるかも知れんが。
　違いに気付くエメリナとティルア。
　ヘレヴィは興味を持った様だ。

　マーメイドにセイレーン。
　歌声で人を惑わす、といった話も聞くが。
　他人の声にも敏感なのかも知れない。

　さて、要望の件。
　ヘルヴィとヘレヴィ。
　俺がついて行くのは難しいが。
　何の為にと聞こう。
　守ってくれる大人が欲しい？

　暗殺者。方々で恨みを買っている。
　そこまでは想像に難くないが。
　元居た組織からも追手が？。
　自分達を奴隷に落としたのは組織の人間。
　無事だと知れば、トドメを刺しに来るか。
　あるいは、来ないか。

　追手については要調査だな。
　グレッグ経由で暗殺教団に依頼する。
　元居た組織に探りを入れて貰う。

　何か懲罰としての奴隷落ちだとしたら。
　その先は知らん話だろう。
　追手が掛かっていない可能性もある。

　しかし主導者が組織ではなければ。
　一部の派閥や個人なら。
　動機が怨恨だと、追手もあり得る話だ。
　内情を探った上で、対応を考えたい。

　ひとまず身柄を魔女協会で匿って貰う。
　条件。揉め事は起こさない様に。
　必要な物は手配しよう。
　余程無茶な物でなければ。

　それから、フィリッパの両親を探す件。
　これは明日の作戦と並行して行う。
　というか、出会える可能性が高い。
　生活に困っているのだろう。
　作戦上、困っている人の目を引く。

　人が集まる所に待機。
　あるいは巡回部隊に随行して貰う。
　沢山探し回る事になるだろう。
　今日はよく食べて良く寝なさい。
　まずは両親を探す体力を付けないと。

　最後になってしまったアンヌの要件は。
　撤退する空挺部隊を見逃した礼について。
　こっちの借りも少なくないんだが。
　公主から呼び出しの連絡も来ている。
　同行して貰い、道すがら話そう。

　少し不安げな目を向けて来るユッタ。
　心配しなくても戻って来るよ。
　後でまた話そう。