黒鷲の旅団
12日目(12)お疲れ公主

 夕食後、外出。
 デルフィアンヌと共に城へ向かう。

 彼女の用件。
 撤収する空挺部隊を見逃した礼。
 何か使ってくれという。
 ひとまず代価として1つ。
 魔人の威を貸して貰いたい。

 ドレス姿のアンヌ。
 パッと見でも貴族に見える。
 人間の貴族も侮る事はあるまい。

 対する俺。
 およそ一般人という服装だ。

 出会う見張りや貴族に問われるだろう。
 いちいち説明するのが面倒くさい。
 外交に来たの体でアンヌを前面。
 俺はお付き役をやる。

「くすくす。小賢しいのね。まあまあよ。
 でも、ちゃんとした服も作ったら?」

 そうなんだよなぁ……
 礼服一式ぐらい手配したい。
 子供達にも全員分、手配したい。
 幾らするんだ。
 今度、カーラさんに見積もりして貰おう。

 徒歩で城へ向かう。
 街の状況はよろしくない。
 本通りこそ綺麗にされているのだが。
 少し横道を見れば、難民や負傷兵の姿。

「あ、あんた……どこ行ってたんだ」

 負傷兵に声を掛けられた。
 見覚えは無い。
 が、向こうは俺を知っている?
 北門でシュテルンと戦った時か。
 兵士の戦列に居た奴らだと。

 名前はダノンとエトロ。
 ブカレスト守備隊勤務。
 仲間が大勢死んだと。
 涙ながら口にする。
 俺が居たら死ななかったのでは。
 もっと生き残れたのでは、とも。

「こいつが西に向かわなかったら。
 今頃あんた達だってペッチャンコよ。
 むしろ感謝するべきなんだけどぉー」

 謝り掛けた俺を制し。
 アンヌが口を尖らせる。

 まあ、この2人を責めても仕方ない。
 傷ぐらいは治そう。
 治癒……深いな。縫合、造血魔法。
 腹も減っている様なので、果物でも。
 農耕魔法で木を生やす。
 と、周囲の難民達が集まって来る。

 難民は瞬く間に木を丸裸にしてしまった。
 葉にも食い付く。
 木まで圧し折って持って行く始末。
 更には取って食われそうなので、退散。
 アンヌを急かして城へ急いだ。

 登城。丁度巡回から戻った近衛隊。
 彼女らに便乗して門を潜る。
 公主近衛隊、ザビーネとシュテラ。
 アンヌの姿に少しビビっているが。
 騎士団長らに取り次ぎを頼む。

 少しして騎士団長。
 それと、人の好さそうな小太りの男。

「お初にお目に掛かる。
 執政官のヘイドルフである。
 黒鷲の。そうそう、ハインリヒ殿。
 神聖教会と諍いを起こしたと聞いたが。
 大事無いか?
 吾輩も、連中の横行には少々思う所が」

 話が長くなりそうだったが。
 騎士団長が咳払いで急かす。
 道を急かすんだが。
 彼も詳しい話を聞きたいと。

 マイナさんの件。
 売春を強要されたシスター。
 亜人の子供達が彼女に懐いている。
 審問官は彼女を悪魔の手先と見た。
 まあ、こじ付けだ。
 彼女は悪人ではあるまい。

 彼女が審問を、拷問を受けて。
 彼女も俺も脱出は叶った。
 聖騎士や大司教の協力もあった。
 しかし魔女や、うちの子供達。
 反教会の意識が高まっている。

 休戦を申し渡していは居るが。
 末端が暴走するかも知れない。
 俺個人として、正面衝突は望まない。
 神聖教会には注意を促してやって欲しい。

 というのはまあ、誘導なんだが。
 騎士団長が後で人をやってくれる様だ。
 利用して悪いな。心の中で謝っておく。

 執政官、騎士団長、アンヌ。
 3人に続いて城内を行く。
 少しばかり貴族や騎士とすれ違った。
 やはり、俺に対しては見下した様な目。
 あるいは、ほとんど興味を向けない。

 まだ子供達を連れて来なくて良かった。
 以前にも公主から食事に誘われたが。
 連れて来るなら用意が要る。
 それなりの恰好をさせてやらないと。

「……母上?」

 アンヌが階段の吹き抜けを見上げて。
 何か言ったか?

「人違いだわ。
 そんなはず、無いものね」

 上に誰か居たのか?
 暗いと魔人でも見間違えるんだろうか。

 蝋燭の薄明かりを頼りに、公主の書斎へ。
 彼女は机に向かって書類を片付けていた。

「んおー、あんたか。
 そこら辺、適当に座っといて」

 顔を上げないまま。
 書類に書き込みながら言う。
 夜も遅いが、休まなくて良いのか?

「問題が山積みなのよ。
 物資とか足りないし。
 難民はウジャウジャやって来るし」

 パレードこそ華々しかったが。
 勝った、で終わらないのが戦争だ。
 戦後処理は大変と見える。

「なんか……ゴメンねー。
 シスターの事、聞いたわ。
 あたしも文句言ってやりたいけど。
 いっぱい難民預かって貰ってる。
 申請教会相手に強く出られないのよ」

 少しして、区切りがついたのか。
 公主はペンを置いた。
 後ろの棚から宝石箱を1つ。
 中には勲章の様な物がある。

「あんたは準男爵に任命しといたわ。
 こんな物しか無くてゴメンね」

 力無く言う公主。
 本当に休んだ方が良いんじゃないか。
 普段は軽いノリの元気娘。
 しかし責任感のある娘だ。
 状況に流されている。
 身体を壊さなきゃ良いが。



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