黒鷲の旅団
12日目(14)矢の如く越えて

『あああ、自分がっ!
 どうしよう、自分、見てたのに!
 わああああっ!』

 落ち着けフレヤ。
 何か思い出せないか。
 犯人像。あと、どっちに行ったとか。

 状況。ユッタとマリナが誘拐された。
 ユッタは銃士協会から戻る途中。
 マリナが見つけて駆け寄った。
 そこを誘拐犯から一網打尽に。

『見えたにゃ!
 北門の方にゃ!』

 ジェマの証言。
 どこから見てる。屋根の上か。
 ユッタ達を抱えた人影が北へ向かった。
 アンヌが跳躍して屋根へ。
 ジェマを追って駆け出した。

 俺も地上から追い掛ける。
 一歩一歩を縮地で加速。
 通行人は直感と洞察で躱す。
 遠見魔法で曲がり角の先を見る。

 加速、加速、活力、加速魔法。
 通信。ユッタ、ユッタ大丈夫か。

『むぐー! んむーうー!』

 口を塞がれている様だ。
 必ず助ける。
 絶対助けるから、待ってろ。

『まずいわ!
 あいつら、馬を持ってる!』

 屋根の上からアンヌの通信。
 仲間と合流、急加速する犯人グループ。
 まずい。外門を出られる。
 流石に徒歩じゃ追い切れない。

 どうする。転移……転移魔法は。
 認識、想像出来る範囲にしか飛べない。
 イメージが安定しない。
 街の北側、あまり足を運んでいない。

 ……アンヌ。聞こえるか。
 お前が人間を全力でぶん投げたなら。
 どこまで飛ばせられる。

『連中を越せるとは思うけど……本気?』

 やってくれ。
 他に手段が思いつかない。

 俺が屋根に飛び上がる。
 アンヌに強化魔法、俺自身に防御魔法。

 トゥーリカは危ないからポケットの外へ。
 探知魔法ディテクト・スフィア。
 アンヌと探知情報を共有。
 測量魔法ロケート。方位良し。
 覚悟。覚悟はとっくに決まっている。

「行っけええええええええ!」

 アンヌが俺を放り投げる。
 なんて怪力だ。音速の壁を越えた。
 ソニックブームを引いて俺が飛ぶ。

 衝撃波。やばいやばい。
 千切れる千切れる。
 防御、障壁……いいや、もう。
 治癒と鈍感魔法で耐える。

 前方。騎馬が複数。
 反応の中にユッタとマリナ。
 目標を定めた所で重力魔法。
 進路を下に向けて墜落に向かう。

 連中を越えた所だ。
 墜落地点に障壁を展開したい。
 俺も墜落して、多分死ぬだろうが。
 連中の足が止まる間に生き返れば良い。

 チョイスは氷花魔法。熟練レベルは34。
 通常なら7位までの魔法を使えるが。
 霧霜卿の称号が後押しして+2。
 第9位まで使用可能。

 威力強化の収束発動。
 氷花魔法第9位、フロストラビリンス。
 氷の花弁と茨が折り重なって広域展開。
 無数の塔、迷宮の如く乱立する。

 と、並行して。
 墜落というか着弾というか。
 俺は地面に激突、絶命した。

 意識……飛んでいない。
 一瞬過ぎて痛みも無かった。
 足元に自分の死体。
 抜け出た半透明の俺は魂だというのか。
 なるほど、神人システムは珍妙だ。

 身体は死んでいても、霊体で動ける。
 動けるなら出来る事をする。
 情報だ。巻き上がった結晶と霧の中。
 敵を見据えて観察する。

 状況。氷花魔法は効果を継続。
 まだ長大化し続けている。
 纏う冷気は深く強い。
 霊体の俺でも立ち入りを躊躇う。
 鋭利な威容もあり、連中の馬が急停止。
 そして左右の幅、およそ1km。
 迂回するにも時間を要するだろう。

「な、何だ。何が起こっている?」

「ダンジョン生成……
 いや、障壁系の魔法か?」

「こんなモン、どこから降って来た」

 犯行グループは戸惑っている。
 そのまま待っててくれよ?
 復活待ちの俺。半透明状態。
 待ちのカウントは30秒。
 経過するのが待ち遠しい。

 犯行グループを観察。
 敵の総数は12人。

 騎兵が3。その内2人の小脇。
 ユッタとマリナが捕らえられている。

 馬車から商人風の男が1人。
 屈強な大人の男が2人。

 あと、少年少女兵……いや、奴隷か?
 あまり殺さずに捕らえたい所だが。

 ……28、29、30。

 復活待ちのカウントが消えた。
 身体が修復され、生き返る俺。
 気付いた犯行グループは身構える。

 ようこそ、痴れ者ども。
 ここが貴様らの墓場となる……か、否か。



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