黒鷲の旅団
12日目(16)取りこぼして何が残った

「お兄さん!
 ごめんなさい、ごめんなさい!」

「パパさん、パパさんっ!」

 ユッタとマリナが駆け寄って来る。
 2人して抱き付いて。
 頭をすりすり。すりすりすりすり。
 よしよし、よく頑張った。
 もう大丈夫だ。

「ああー、良かった。
 ホントもう会えねーかと」

「良かったです。
 間に合って良かった」

「もう終わりかと思ったよ!
 ああーもー!」

 他の子達も安心。
 ぽろぽろ泣き出す子も居た。

「おっちゃん、来てくれ!
 さっきまで息してたのに!」

「おじさん、助けて!
 バジレアを助けて!」

 マルカと、生き残った奴隷兵の子が呼ぶ。
 ユッタ、マリナ、また後でな。
 バジレアという少女の処置に掛かる。

 臨死状態から、除細動魔法。
 蘇生。瀕死状態に。
 弾丸を転移魔法で取り出す。
 造血と止血、縫合魔法。
 通信魔法と念話魔法のリンク。
 友達の声を聞かせ続ける。

「じぇ、ジェイナ……テクラ……あれ?
 えっ、ジェイナ? 私、死んだ?」

 意識を取り戻したか。良かった。
 死んでないよ。生存者1名追加。

 助かったのは治療を受けたバジレア。
 友達のジェイナ。
 ジェイナの双子の弟ジェイム。

 他の少年兵3人は……手遅れか。
 当たり所から悪かった。
 頭部損傷。心肺蘇生で脳死は助からん。

 ロニー、イートン、ドメニコ。
 奴隷兵の仲間だったという。

 解析。レベルは2〜4程度。
 レベル1桁程度。
 蘇生の代償に消滅する。
 残念ながら手詰まりだ。

「ごめんなさい……俺、俺……」

 撃っちゃったデュオニス少年、悲しそう。
 撃たないのがベストだったとも限らん。
 抵抗して見せなければ誰か攫われたかも。
 気に病むなというのも難しい所だが。

「撃たれて死ぬなんて、大分マシだよ」
「犬のご飯になるよりマシだよ」

 ジェイナとバジレアが虚ろげに言う。
 相当に扱いが悪かったらしい。

 そういえば、さっき。
 バジレアはテクラと言った。
 ローダとテクラという奴隷兵。
 あるいは少女兵に心当たりは?
 昔、同じ名前の子が一緒に居て。
 しかし売られて行った様だ。

 神人傭兵のランカーはどうしただろう。
 まだ2人に小銃を持たせているだろうか。
 後方配置なら生存している可能性は高い。
 銃士ギルドに顔を出していた筈だが。

「あっ、見たよ。
 あの、傭兵の子だよね」

 1人になりたくて魔女協会を出たユッタ。
 銃士協会の練習場に行っていた様だ。

 俺の知るローダとテクラ。
 その生存は確認できた。
 バジレア達の知人かどうか。
 これは会わせてみないと分からん。
 まあ、今日は遅い。また明日にしよう。

 ジェイム、ジェイナ、バジレアを保護。
 ジェイナは弟ジェイムと離れたくない。
 魔女協会に置けないか。
 イェルマグ隊に預かって貰う。

 捕縛した誘拐犯1名。
 これは後から来た騎士団に引き渡した。
 狙いは不特定多数だったのか。
 それとも俺の従者に狙いを定めたのか。
 詳しい話が分かったら教えて貰おう。

 子供達と街へ帰る。
 アンヌの怪力で街の外。
 4kmばかり飛ばされていた様だ。

 夜間。アンデッドも少し湧いているか。
 今日は戦争が無かった。
 発生数も大した数でない。
 左右を弩兵隊、弓兵隊に任せる。
 俺はマリナや銃士隊と並んで話をする。

「あ、あ……レベル……」

 気付いたのはルーシャ。
 解析魔法を持っていたかな。
 そう、俺のレベルが下がっている。

 神人も、死んで生き返るとレベルが下がる。
 唯人、NPCに比べれば微々たる物だが。
 死亡で1つ、復活ペナルティでもう1つ。
 俺のレベルは2つ下がって39だな。

「そんな、そんな……
 私のせいだああ……!」

 ユッタ、泣かないで。
 選んだのは俺だ。
 俺のレベルよりユッタの方が大事。
 俺はそう思ったんだよ。

 俺が危ないと、お前達は無茶をする。
 なら、分かるだろう?
 お前達が危なかったら。
 俺だって少しばかり無茶をする。

 無茶だって頭では考えても。
 気持ちを抑えられない。
 だから最初から、用心だ。
 なるべく危ない事はしない様にしよう。

 よし、反省会だ。今日の反省。
 まずはカーチャ。
 1人で突っ走ったトコからな。
 ギャーとカーチャが叫ぶ。
 ふふふとユッタが少し笑った。

 門の方で人影。
 投げ散らされるアンデッド。
 アンヌが迎えに来ている様だ。
 薄暗いが、かがり火の影。
 手を振ったのが見えた。

 やっと帰って来た感。
 ああ、今日も長い1日だった……



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