黒鷲の旅団
12日目(17)意外な所に

『すまんかった! マジゴメン!』

 現実側、見知らぬアドレスから通信。
 本社窓口から取り次がれて来た様だが。
 名前。ブリジット・ル・ヴェリエ。
 聞いた事が無い。

 映像。見た目は若いな。
 学生さんぐらいに見えるんだが。

 しかし、よくよく聞くと。
 声が銃士メアリアンだ?

『あ、ああ、そう、そうなんだ!
 えーと、黒鷲の……ハインさん。だよね?
 オフ会で公主ちゃんと会っててさ。
 あんたの事も聞いてたんだよ」

 そりゃまた意外な所から情報漏洩だな。
 あちらの世界と同じ名前。
 調べれば分かってしまうだろうけれど。

 で、謝罪。何でまた。

 聞けば、ユッタの件。
 銃士協会に赴いた時、見ていた。
 夜も遅く、早く帰りなよと言って。
 付き添いも付けずに帰したという。
 後になって誘拐事件を知りった。
 対応について後悔した……

 まあ、結果的にみんな助かった。
 遺恨にする様な話じゃないんだが。
 しかし、これ。この接触。
 お前さんが謝ってスッキリしたいだけか?

『う……すんません』

 萎れるブリジット。
 言い方が意地悪だったな。
 謝意は伝わった。
 あまり気にするな。

 護衛は付けなかった。
 その事実は今更変えられない。
 よしんば付けたとして。
 他の子はどうだったか。
 マリナの方は攫われたかも分からん。

 まあ、それでも借りだと思うのであれば。
 明日のイベントにでも参戦して貰おうか。

『あ、えと。あれだ。
 神聖教会を、ぶっ潰す……みたいな』

 物騒だな……ぶっ潰さないよ。
 連中が潰れても難民が困る。
 血が流れない形でガス抜きをやるだけだ。

『へっ? ででででも何か。
 全面戦争だっつって』

 誰だ、そんな事を言い触らしているのは。

 と、これがユッタだという。
 そうか、俺の意図を汲んでくれたんだな。
 銃士協会で情報操作をしてくれた様だ。

 魔女と神聖教会の全面戦争。
 これはブラフだ。
 ただ、人手が必要な事に変わりは無い。
 気が向いたら手を貸して欲しい。
 と、メアリアンのブリジット。
 仲間にも声を掛けてみると。

 しかし、オフ会なあ……

 転送元が訓練用で参加していたVRゲーム。
 転移先はゲームを装った異世界みたいな物。
 しかし入り口はゲームなのだと改めて思う。

 あちらの世界で縁が出来て。
 こちらの世界でまた出会って……

 そんな人脈も力になる。
 ブリジットに聞いてみる。
 参加したオフ会。
 俺の事を聞いたって。
 どんな奴が居たんだ。

 公主イーディス。
 大魔女カシューさん。
 冒険者バリーとか。
 聖騎士ランスロット。

 あと……魔王様?

『そーそー、魔王様。
 魔王フランツペーター。
 バリーさんがペタっちって呼んでた。
 あんたも知り合いなんだって?』

 ちょっと待て。
 魔王が神人とは聞いていたが。
 俺の知り合いでフランツペーター。
 フランツペーター・バウアー?
 あいつが魔王様。どういう因果だ。

 魔王フランツペーターについて。
 何と聞いているか。

 どこから本当か分からないというが。
 8千年ぐらい前から活動していて。
 レベルが7ケタ目に突入。
 アフリカ全土に版図を広げている。

 100層クラスのダンジョンを増産。
 これがもう庭いじり感覚で。
 交配実験で新モンスターまで考案中。

 軍門に下れば美人の魔人娘を嫁にやるとか。
 子沢山で、4ケタまで数えてもう忘れた?

 聞いていて眩暈がしてきた。
 一体どこから本当で、どこまで冗談か。
 本人にも直接確かめたい所だが。
 警報。本業の方。傭兵稼業。
 企業間紛争が一部再開された様だ。

 仕方ない。そちらを先に片付けよう。
 本社に通信。通信手、誰か空いているか。

『はいはーい。
 今回はボクが取り次ぎますよー♪』

 ウワサをすれば魔王様……まあいい。
 本社に向かう。状況は。
 敵は数百からなる戦車群だと。
 ビル街に紛れて、こちらに侵攻中。

 俺のベルクートを待機させておいてくれ。
 それと、手が空いたら聞きたい事がある。
 体を空けといてくれ。

『おやおやぁ? それってアレですか。
 身体に聞いてやるぜゲッヘッヘみたいな。
 いやん、ハインさんのえっちぃ〜』

 そうだ、こういうフザけた奴だった。
 また頭が痛くなって来たな……



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