黒鷲の旅団 >13日目(9)スグニモカラッポ?


黒鷲の旅団
13日目(9)スグニモカラッポ?

「そうか……まあいい。
 優勢で終わったのを戦果戦績としよう」

 魔女協会本部に引っ込んで、戦果確認。
 フリアリーゼさんからも同意を得た。
 もっと渋るか、正直心配だったんだが。

「おばちゃん、ありがとー!」

「こら、そこ、オバサンではない!
 気を付けて帰れよー!」

 帰って行く子の声に返答。
 お菓子のフリアおば……お姉さん。
 街の子に慕われて気を良くしただろうか。

 それでも、不満が無いワケではないだろう。

 魔女協会の炊き出しを、神聖教会の要請による物と公言した。
 異端審問官や神殿騎士を引っ込ませる為、ではあるが。
 無償の厚意を一部、連中の手柄にしてしまう。

「なあに、名より実を取るのが魔女だって事さ。
 ハインちゃんも、言い包められずに頑張ってくれたねえ」

 レイヴンヒルト、念話を読心魔法で盗み聞きか。
 臣従ではなく対等の依頼に納めた辺り。

 大司教は難しい立場だと思う。
 市民を助ける為、しかし魔女に手を借りた。
 機転と取られるか、反逆と取られるか。

「追い出されるなら戻って来りゃあ良いのさ。
 何だい、あいつ。澄ましやがって」

 肩を竦めるフッケバエナ。
 大司教、元大魔女ホークミリアとは同期らしい。
 事情は知っているが、やり方は気に入らない。
 愛憎織り交ぜた、複雑な感情がある様だ。

 大司教も、また機会を作ると言っていた。
 神聖教会との調整は追々話し合おう。
 要求。提供できる物。譲歩できる物。
 考えを纏めつつ、次の作業へ移る。

 次の作業。食料の確保だ。
 配布の宣言をした手前、果物なんかの数を揃える。
 それと、収穫の手伝いにスカウトした孤児達が居る。
 夕食の面倒を見てやる約束だった。

 俺は魔女協会の本棟を出て、中庭へ。
 花人達に水と土。あと農耕魔法。
 それと集まった子供のリスト……会った方が早いか。

 ペトリナの案内で孤児達の所へ。
 うちの子達と一緒に、空き部屋に集合していた。
 みんな、お疲れ。少し甘い物でも。

「あっ、オレンジ!」
「あっ、リンゴ!」
「ああーん、無くなるぅー!」

 果物を詰めたカゴを持ち込んだのだが。
 中身を見るや、我先にと飛びついて来る。
 落ち着いて。ちゃんと全員分あるから。
 あっという間にカラっぽになってしまった。

 そして尚、腹の虫、ヨダレ、集まる視線。
 あー、大丈夫だ。これで終わりじゃないから。
 夕食も用意する。その前に、少し話せるか。

 北区の孤児、グンター、リュシアン、メリカ。
 南区の孤児、フィン、テッド、カリカ、サフィラ。
 少年兵経験者で、指示にもよく従ってくれた様だ。
 資金援助も兼ねて10万ずつ、一般兵待遇で給金を渡す。
 それと1カゴずつ、果物をお土産に持たせる。

 料理を手伝ったジルケ、マイナさん、ヘルヘレ姉妹。
 同じく10万ずつ支給。支度金なり路銀の足しに。
 特にマイナさんは僧服のまま。装備を整えないと。

 合流していたのがローダとテクラ。
 こちらも支度金として各10万。
 いきなりご主人様に仕送りするなよ?
 弾薬はなるべく給金から買う事。
 出向組でも、うちの子ルールに沿って貰おう。

 うちの子……空間、探知、解析魔法。
 人数が。えーと、あとサンドラが居ない?
 通信。無事か。フィリッパと一緒らしい。
 日が傾いているので、早めに戻ってくれ。

 ……フィリッパの両親、まだ見つからないか。

 魔女協会の入り口で、ギリギリまで粘るつもりの様だ。
 昨日の今日でも人攫いが怖いんだが。
 付き添いはフレスさんが一緒? ならまだ良いか。

 それから、手伝いにスカウトした子供達。
 食料は用意する物として、他に。
 身寄りの無い子などは、行先も考えてやりたい。

 孤児のラウルとチキータ。ハーフシルフの兄妹。
 半亜人の被差別者。特に心配だが。
 既にイェルマグ隊から声が掛かっているらしい。
 こちらも支度金ぐらい援助しようか。

 難民で少女娼婦のリュシーとジョゼ。
 親の借金の形に売られ、売られた先の街が壊滅。
 娼館の主に連れられて難民中。
 これを機に、娼婦なんて辞めさせてやりたい所だが。
 実家は貧しく、ただ帰してもまた売られる様では……

 うちの団か、でなければ魔女協会で面倒を見よう。
 身請け金、借金の残りは、リュシーが80万程度。
 ジョゼは良く分からない様だ。
 とりあえず2人分として200万持たせる。
 ご主人様に話を持ち掛けてみてくれ。

「あ、ありがとう!」
「すぐ戻るね!」

 金を持って駆けて行くリュシーとジョゼ。
 の後を追い掛ける様に、

「あっ、おおお俺達も!」
「そっその、身請け金って言うか」

 少年アルド、ブレーズ、セレスタン。
 村が壊滅し、みんな両親を失った。
 男の子が身請け金……って何だ。
 身なりも普通で、奴隷や男娼にも見えないが。

 少々疑わしいものの、それぞれ100万持たせる。
 こんなペースで配っては、金の残高も心配だが。
 手早く切り上げたかったのは、別件。
 少年3人以上に、隅っこで蹲っている子が気になっていた。

 うちの子達も揃って様子を窺っている。
 と、マルカとイェンナが鼻をつまんで……どうした?



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