黒鷲の旅団
13日目(11)後手、分水嶺を追って
「館内と敷地の浄化は引き受けよう。
まったく、天然痘まで治してしまうとは」
フリアさん、関心顔。
魔女協会側の対応は引き受けてくれる様だ。
俺は逃亡した少年達を追いたい。
患者は密閉状態で持ち込まれ、すぐ治療したとはいえ。
天然痘、飛沫感染の可能性がある病気だ。
逃げた3人が吸い込んで、保菌者になった可能性がある。
金を騙し取りに来た悪ガキ……だとして。
魔女協会から感染源が逃げた、という状況が良くない。
疫病をバラ撒いたなどと言われては、印象操作が水の泡だ。
とっとと捕まえて、治してしまいたい。
もう日も遅い。子供達は魔女協会に残す。
トゥーリカだけポケットで連れて行く。
まずは周辺に、探知、空間……解析魔法。
アルド、ブレーズ、セレスタンという名前がヒットしない。
名前からして偽名だっただろうか。
……捜索の手を増やそう。
幸い、顔は分かっている。
記録・転写魔法で、俺の記憶から3人の姿絵を作成。
イーディス公主に通報と、手配書の作成依頼。
騎士団・近衛隊から捜索部隊を出して貰う。
あとは冒険者ギルドだ。
捜索依頼を出そう。
俺の所持金の残りが、1420万、と少々になっている。
1人頭400万の懸賞金を出す。条件は生け捕りだ。
素直に従うとも思えんので、無傷でとは言わない。
補足として、悪い病気を持っている可能性あり。
その病気は俺の魔法で治せる。
連行者は一緒に治療を受けてくれれば良い。
支払う報奨は1200万。盗難金額は300万。
完全に赤字だが、逃がすワケには行かない。
「逮捕よりも、病気の拡散を防ぎたいって話か」
「悪い病気ってどれよ。黒死病?」
ギルドに居合わせたパラディオン達が捜査に参加。
ペストじゃないです。天然痘です。
病名プラス魔法で治せるという事で、ギルドが騒然となる。
念の為、ロードメイアに抗生・免疫魔法を伝授しておく。
「これ、ダンジョン攻略組にも売れそうだわー。
特許申請しときなよ? あたしは待ったげるから」
そうだった。ダンジョンはともかく特許の方。
伝授相手がレベル上げたら特許申請されてしまう。
他の魔法も、広める前に特許を取らないと。
目撃情報を探しつつ、一度魔女協会へ戻ろう。
既に日は落ちて、しかし通りには難民の姿が多い。
泊まる所も無い路上生活。
まだ起きている者を探して、転写魔法の姿絵を見せる。
目撃情報、無し。こちらではない……?
いや、回り込んでいる可能性も捨て切れない。
一旦、魔女協会へ帰還。
「ママ? ママ〜……」
魔女協会本館ロビー、眠い顔のフィリッパが寄って来る。
ママじゃなくてゴメンな。明日また探してやるから。
「はーい、ママだよー」
嘘つきフェドラちゃん、カットインしてフィリッパをハグ。
そのまま手を引いて部屋に戻してくれる。
フェドラも、いつもお姉さん役でゴメンな。
俺には甘えて良いんだからな?
「え……えへへ? えへっえへへへへ」
嬉しそうに笑うフェドラ。
ひとまずフィリッパを任せたぞ。
疲れた顔のシャンタルから報告。
ダヌシェ、ヘッダ、ビーチェは容体が安定。
他の子達には今の所、発症者は無し。
あとは本当に、逃げた3人を確保するだけだな。
俺からも魔女達に状況報告。
捜索の手を借りたので、今の内に休んで貰う。
昼間の夜で疲れているだろう。
「すまんけど、そうさせて……」
「悪いねぇー……」
ヘリヤとシャンタル、ダウン。
ロビーのソファで寝てしまった。
魔法特許の申請はフレスさんが担当してくれる。
というか、まだ余裕あるのかフレスさん。
正魔女で全員ダウン。
上級魔女でも魔力切れが目立つ状況。
それに対し残存魔力、大魔女の名は伊達でない様だ。
では、特許申請を。
先に伝授の為にレベルを上げた、抗生・免疫魔法。
スキルポイントを投入して移植外科・浄血魔法。
あと何だ。粉砕・複製魔法も追加。
他に認定待ちが、午前に申請した火砕・形成外科魔法。
「確かに預かりました。
それと、お願いしたい事が」
こちらからも頼みが……と、聞いてみて同じ話だった。
抗生魔法・免疫魔法・加えて抗血清魔法。
疫病の拡散に備え、希望者には無償で伝授する。
頭を下げる大魔女達。礼には及ばない。
悪い噂は簡単に広まる。締めて掛からないと。
既に後手に回ってしまった。
何事も無ければ良いが、あった場合、被害を抑えられるか。
事件の分岐点、分水嶺は……
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