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黒鷲の旅団
13日目(12)過ぎた応報

「いやっほ〜、寝た寝た」

 ヘリヤ、シャンタル他、上級魔女達の一団。
 巡回する俺を見つけ、ホウキで飛来した。
 仮眠を取って回復したのだろう。
 そのまま散開し、捜査の手に加わる。

 捜査の手は増やしたが、黙って待つのも落ち着かない。
 俺は俺で捜索を続けていた。

 探知魔法の反応を1つ1つ解析。
 ステータスに解析を掛けて、目を通しての診断スキル。
 保菌者が居ないか確認して行く。

 診断スキルが、技能スキルじゃなくて魔法だったなら。
 探知と空間と組み合わせて、範囲鑑定出来ると思われる。
 ただ、解析と空間以外に要素が思いつかない。
 診断魔法だかを作れるのは、まだ先だろうなあ……

 今の所、見つかった保菌者は、固まった所に4名。
 しかし出向いてみた所、逃げた少年は見ていない様だ。
 取りあえず治療の後、探知。周辺に他の患者が居ない。
 他に感染ルートがあるのだろうか。

 街中を俺と魔女達だけでカバーするのは無理だろう。
 公主や大司教にも相談してみるべきか。

 公主……で思い立ち、城に向かう。
 昨日捕らえた誘拐犯の1人はどうなった。

「ごごごごめんちゃい!」
「申し訳ないのである!」

 出迎えたイーディス公主、執政官ヘイドルフが土下座。
 加えて宰相ブランドナーも頭を下げる。

 ……ナニコレ。

 宰相の説明する所、捕縛した誘拐犯は釈放された……何で?
 執政としては、正規の保釈金を支払ったから、が理由。
 公主は執政、NPCに任せ切りにしていた。
 NPCだからというより、執政の性格が原因の気もするが。
 結果、法規通りに事が進んでしまったのだと。

 代わりに、なのかどうなのか。
 誘拐魔術師ダイダロスから、書類が2枚。

 1つは溶鉱魔法の指南スクロール。
 使い捨てのスキル譲渡アイテムらしい。
 速射発動を伝授した代価、のつもりだろうか。

 もう1つは、手紙。弁解だか休戦交渉みたいな内容。
 ユッタとマリナがうちの子だと知っていたら狙わなかった。
 対立は望まないので何とかならないか、等々。

 奴隷や何か、不幸な子供を集めているのは聞いた。
 誘拐組織と繋ぎが必要なら協力しても良い。
 力で潰すのか金の力で引き取るかは関与しない、等々だ。

 奴も神人。殺しても生き返るのが神人だ。
 妥協点を模索するより無いだろうか。
 逮捕して囲っておくのも、コストや労力がな……

 一応、手続きを通した執政官の顔を立てる、のテイで。
 貸し1つという形で事態を承諾する。
 代償は、何か頼みを1つ聞いて貰う、という事で。
 内容については、いずれまた考えよう。

 本音を言えば、公主権限で亜人差別撤廃を……
 と、口で命令したとして、簡単に浸透する物でなし。
 もっと現実的な要求を考るべきか。

 気を引き締め直して捜査を再開する。
 目撃情報、皆無。
 暗闇に紛れて上手く逃げ回った様だ。

 天然痘の患者の分布。少ない上に一貫性が無い。
 連中が撒き散らしながら通った線は、薄くなって来た。
 そもそも感染していない? 取り越し苦労だった?

 しかし、万が一という事もある。
 確保して、確認して、安心したい。
 その安心を得る為にと、積んだ報奨金が1200万。
 俺も心配性が過ぎるだろうか。

 ともあれ、報告を待つのも気が気でない。
 重症者を治療しつつ、俺自身の捜査を続ける。
 北区から東区、南区へ折れ……

 不意に悲鳴。女の声。どうした。
 駆け付けてみると、えー、誰だ。
 アニスさん、だったか。ベラさんの仕事仲間。

 その怯えた様子の彼女が指差す先。
 血だらけの地面と、子供の惨殺死体が3つ。

 ……嫌な予感がした。

 顔が判別できないぐらいに潰されている。
 しかし、着ている服は俺の記憶に新しく。
 背丈も、あの3人と合致する……

「あ、アルノー!? その服、まさか!」

 取り乱した様子で駆けて来たのは、父親だろうか。
 アルノー……アルドの本当の名前の様だ。

「お、おお、お前がやったのか! お前がっ!」

 詰め寄って来る父親。落ち着け。俺じゃない。
 憲兵隊も駆けつけ、父親を宥めてくれる。

 ……解析。疫病・感染症の反応、無し。
 安心感と疲労感が一度に溢れて来た。

 金は持っていない。殺人犯が持ち去ったのだろう。
 金目当てで殺したか、殺しがメインで金はついでか。

 何とも後味の悪い結末になったな。
 治安の悪い街に、大金を持った子供。
 狙われても不思議は無いが……
 因果応報とは言うが、ちょっと厳し過ぎないか。

 泣き崩れる父親に掛ける言葉も見つからない。
 殺人事件の調査は憲兵隊に任せよう。
 俺は捜索依頼を取り下げに、その場を後にした。




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