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黒鷲の旅団
13日目(13)思念誘導機

『ご主人! ご主人しっかり!』

 不意に視界が開けた。
 前面に空、眼下に広がるのは雲。
 けたたましい警告音はミサイルアラートか。

 操縦桿を引く。チャフ、フレア散布。
 右45度ロール。シャンデル機動で回避。
 機体の背中を掠め、敵ミサイルが抜けて行く。

 被弾したショックで、一時意識を失っていた。
 電脳リンクしながら空戦するモンじゃないな。
 注意力や判断力が鈍ったか。

 自機、戦闘機。Su-47改PD2型。
 通称はシュトゥルムベルクート。
 概念実証機の実戦向け改修機、を更に対地改修。
 いよいよワケ分からん機体だが、性能は上々。
 対地向けの改修で施した追加装甲のお陰で、まだ飛べる。

 しかし、何が起きている。
 高度を上げ、敵を引き離す。
 引き離しながら思考を纏める。

 現実世界。傭兵稼業。
 軍事企業間抗争の延長。

 敵対企業の侵入と、それに対する迎撃。
 俺は戦闘機で現地に向かった。
 空対空戦闘は味方に任せ、地上目標を順次爆撃。

 爆撃していて……撃たれた。どこからだ。

 ベルクートはそもそもステルス機でもない。
 しかし、高度電脳化社会。
 電波系のレーダーよりもジャミングの方が強力だ。
 敵味方、物資も妨害電波も入り乱れる戦場。
 レーダー誘導自体が現実的でない。

 対する索敵側は、衛星や自機多方向のカメラ情報。
 電波で拾えない情報を熱光学情報などで補完している。

 要は、ステルスの有無が大きな意味を成さなくなった。
 誘導よりも無誘導。放物線、弾道計算による狙撃。
 あとは……先手必勝だ。当てられる前に見つけないと。

『後ろ! ご主人!』

 咄嗟に操縦桿を引、けない。押した。
 突き飛ばされたみたいに雲海へダイブ。
 電脳に干渉されて、義手が勝手に動いている?

 機体後方、つまり雲の上で爆発。
 敵が使用したのは近接信管弾頭か。

 敵の高射砲に狙撃職人が居る。
 俺に狙いを定めている。
 電脳コードを機体の制御端末へ接続。
 戦術データリンク。
 射角から敵の位置を割り出せないか。

『こっち! ご主人、こっち!
 ここが怪しい! あーう!』

 電脳内に表示される3Dマップ上。
 幾分デフォルメ化された花人のCGが跳ね回っている。
 白い花の……アンゼさん、アンゼリシア。
 さっきから声がするとは思ったが。
 こんなトコまで、どうやって入り込んだんだ。

 まあ、この際、助かるから良いか。

 指定座標、ビル上部を各種レーダースキャン。
 あれが高射砲かな。
 光学迷彩で隠しているが、サーモセンサーに感。

 空対地ミサイル発射。
 次いで軌道を左下、右へ回り込む様にスライスバック。
 旋回の合間にスタンドオフディスペンサー、投下。

 ミサイルが撃墜される。想定内。
 続くディスペンサーが小爆弾を散布。ビル上部が爆発。

 各種スキャン。反応無し。
 反撃らしい反撃も無し。

 そう数も撃たずに当てて来た凄腕だ。
 全身義体だろうから、恐らく死んでいないだろう。
 早々に逃げたか。そんな判断がまた熟練者だな。

 と、機体がふら付く。被弾してどこか不調だ。
 味方に通信。最寄りの空対空部隊はサナトス達か。
 残りの土産を置いたら、先に上がらせて貰う。

 サナトス……コードはグリムリーパー。
 こちらアンダーテイカー、通信を。

『グリムリーパーよりアンダーテイカー、了解した。
 ってか、お前、生きてる様だが、どこ食らった。
 コクピットが煙吹いてたぞ。負傷は?』

 コクピット、被弾……うわ、本当だ。俺の右腕が無い。
 義手だから良い様な物の、撃ち抜かれていたのか。
 いや待て。操縦桿はどうやって動いた。

『ご主人の気持ち、ちゃんと分かてる。
 ここ動かせば良いな? な?』

 頭の中でアンゼさんの声。

 俺のイメージをアンゼさんが機体制御システムに伝達?
 植物にはテレパシーがあると聞いた事はあるが。
 花人を介して戦闘機を思念誘導って、どこのSFだよ……

 プロテクトも厳重な軍事ネットワークに侵入。
 思考を読み取って戦闘機を操縦する。

 果たして、俺達がゲームの中に入っているのか。
 ゲームの中身が、俺達の世界に出て来ようとしているのか。
 胡乱だからと議論を後回しにしていて良い物か。

 まあ、生きて帰るのが先だ。

 残りの爆装を投下。
 敵の地上部隊にぶち込んで、帰途に就こう。



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