黒鷲の旅団
14日目(4)恐怖耐性と毒の庇護
「ぎゃあああ! 街に魔人が! 魔王の娘が!」
「ひいいい! 殺さないで、殺さないで!」
魔人デルフィアンヌ来訪に、冒険者ギルドは騒然。
まあ、俺としては想定内なんだが。
きょとーんとしているアンヌは何だ。
「あれ? だって、昨日のトモは今日のテキって」
……敵じゃ合ってるじゃんよ。
休戦中だと説明しても、なかなか信じてくれない冒険者達。
アンヌの滞在許可証も見せるが、半信半疑といった様子。
悪名高い魔王様の娘、簡単には気を許せないか。
まあ、あとは行動で示すしか無いさ。
うろうろと見物するアンヌはするに任せる。
俺は掲示板に張り出された依頼を眺める。
採取依頼が多数。モンスターの討伐依頼も幾つか。
空間魔法でマップ表示、生息地を照らし合わせて……
「少し話せるか」
と、不意に俺の肩を叩いたのはイメルさん。
表の仕事を探しに冒険者ギルドに来ていた。
暗殺教団には今、裏の依頼が少ない。
休戦中、物資不足。貴族間の争いが停滞している。
腕を磨く為、食い扶持を稼ぐ為、表の仕事も必要になる。
「それに、ほら、グレッグ殿は神人であるしな。
魂の研鑽は、幾ら行っても損は無い」
神人。魂の研鑽。依頼達成で得られるスキルポイント。
雑多な仕事でもしてポイントを稼ぐ。
稼いだポイントを暗殺系のスキルに振る。
それなら、表の仕事も裏の仕事に役立つか。
しかしNPCはNPCで、プレイヤー側を研究しているのか。
魔王軍も人類検証計画とか言っている様だし。
ちなみに……俺からの依頼について。
そうだった、とイメルさん。同席して話を詰める。
ヘルヴィとヘレヴィの件。
『子供の家』とかいう組織とは連絡が付いた。
奴隷落ちは同組織による処罰、と回答を得たという。
双子は依頼以外の勝手な殺しをする事が多かった。
組織としては使い物にならんと判断したらしい。
奴隷落ちの後は何も知らないし、責任も取らない。
追手も掛けていないので、あとはご自由に、だと。
請求は、仲介ないし情報料として200万。
暗殺教団では、霧霜の黒鷲なら高くないだろうと言っていた?
まあ……安くも無いが、払おう。
それから、もう1つの案件。
冒険者カリオンについて、調べは付いたらしい。
ダニエルの腰巾着の1人で、中級市民。平民。
家族構成は両親と、弟妹が1人ずつ。
手を出す必要は無いが、警戒を煽るのはアリかな。
カリオンの家族の『警護』をお願いします。
それっぽい格好で家の周りをウロウロしてくれ。
聞かれたら俺の名前を出して良い。
『息子さんに』『お世話になっている』『お返しに』だ。
ダニエル側から接触があった場合?
『裏切ったなどと思われてはご家族に危険が』とか言おう。
それを信じて分裂まで至るかは四分六だが。
カリオンが否定しても、最低限、疑念は残るだろう。
依頼料として50万。戦闘があれば追加を出す。
他に頼みたいのは子供達の体術指導だが。
お互い後の予定もある。追々考えるとしよう。
ふと、膨れっ面のアンヌが戻って来る。
冒険者登録したいが、受付がビビっていて会話にならない?
振り返ると支部長や給仕さん達、恐怖状態。
鎮静魔法も飛ばしてみるが、ダメ。
これはアンヌが居る限り、無理そうだ。
「そっちのイメルは平気なのに、何でだろ?」
「私は恐怖耐性を鍛えているからな。
それでも、怖いは怖いんだぞ?」
しかし、何だって冒険者登録。
等級証はともかくマネーカードが欲しいのか。
酒場に行って女将に貰う方が早いだろう。
ユッタ達から通信が来て、仕立屋の方は済んだらしい。
鉱山に行く話をしたら、すぐに伝わって盛り上がり始めた。
『みんな、遠出するって!』
『遠征だ!』『遠足〜!』
出発は昼食後だ。しっかり用意しよう。
一度魔女協会に戻って装備の手入れを。
まだ治安が悪いので、矢弾の買い出しは俺が行く。
『えー、でも、あと何しよう』
『小麦粉は残って無かったかしら』
『おやつ!?』『それだ!』
退屈を示すイェンナにヘレヴィが提案。
おやつを作る方向に纏まった様だ。
それでも手が空く子は、畑も見てやってな。
ヘルヴィは、まだまだヘレヴィにベッタリなのだが。
一方のヘレヴィは、他の子にも積極的に話し掛けている。
ヘルヴィがユッタと衝突している分、の調整だろうか。
自分を姉妹共々受け入れて貰える様に?
考え過ぎかも知れんが、そうでないかも知れん。
危うい温度差かも知れないと、念頭に入れておこう。
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