黒鷲の旅団
14日目(5)どっちが供給
「よっ、まいどあり。
依頼も請けてってくれなー」
弾薬の調達は銃士協会へ。
気さくな支部長エンリコから、弾薬パックを60個購入した。
買う方も買う方だろうが、在庫があるのに驚きだ。
一般店舗と比べ、神人向け施設は貯蓄が多い様子。
本部からと称して、物資不足に関係無く納品があるという。
これは運営システムによる補助か?
弓弩の矢も、弓使いのギルドを探した方が良いだろうか。
銃士ギルドに貼り出された依頼も見る。
食料調達と……鉱石や火薬の材料の採取。
「また銃士の新人入れたって?
今朝方、うちの連中がユッタちゃんと会ってな。
銃は初心者だけど強い子が来たとかって。
凄い得意げに話してたってさ」
銃は初心者で、強い子……フィリッパじゃないな。
ヘルヴィとヘレヴィだろう。
得意げに紹介したユッタ、少なくとも実力は認めている。
そのまま仲良くなって欲しい物だが。
それはそれとして、次は弓使いのギルドを探したい。
フィービィ達が居たので場所を聞いてみる。
「弓士連盟ってのがあるけど……大丈夫かな」
「ま、旦那なら大丈夫でしょ」
何が大丈夫なのか心配されてしまった。
分からんまま足を運んでみる。
「銃士が弓士連盟に何の用だ?」
銃の威勢に追いやられて、弓弩使いは肩身が狭いのだろうか。
あるいは同じ飛び道具、ライバルとして気に食わないか。
支部長フォルトナー以下、職員から会員まで懐疑的。
拳銃下げているというだけで、訝しがられてしまった。
「銀髪でハインリヒ。ペネロペの言ってた奴じゃないか?」
「あっ、アレか! 銃、弩、弓の3段射撃!」
ペネロペさんは魔法弓士だったな。
後からガイゼル隊に入った2人の内の1人だが。
加えて、割と知られていた子供達の活躍ぶり。
弓弩隊も運用するなら知識は要るだろうと、受け入れてくれた。
「な〜んだあ〜、先に言ってよー」
「今度は子供達も連れて来てくれよ」
「将来有望な弓士のタマゴ達だ。クロスボウ使いも歓迎するぜ」
子供達を評価してくれるのは俺としても嬉しい。
また今度、必ず寄らせて貰おう。
入会金5万と、2級弓弩指南書10万を購入。
そう言えば無かった弓士、アーチャーの称号が付く。
矢束、太矢束も30ずつ買い足して……
振り返ると入り口から覗くアンヌ。
ビビられない様にコソコソしている様だ。
関心顔。ギルドが珍しい様子。
念話……魔王軍の支配地域にはギルドって無いのか?
「私が生まれた頃には、もう無かったわね。
人間はみんな、鎖に繋がれてたと思うわ」
徹底的に人間社会を破壊した魔王軍。
残した方が良い物まで破壊してしまったのだろうか。
で、後になって慌てて、人類検証計画。
殲滅作戦も行き過ぎると唯のウッカリかよ。
他にもギルドを見たいというアンヌ。
昼食まで、まだ時間はあるだろうか。
見ておいで……というと、ついて来いと。
俺も出発の準備があるから、後でな。
「えー、じゃあ、そっち行く」
そうか……うん、いいけど。
アンヌの滞在の目的が、よく分からん。
自軍の撤退を見逃した礼、に始まり。
外交目的、を理由に滞在許可を得ているが。
主立って外交している様にも見えないな。
彼女が居る事で停戦が保たれるのか?
だとしたら、俺なんかに相手させていて良いのか。
お姫様相手に、たかが準男爵なんだが。
丸投げ中の公主様サイドは、そこまで人材不足か。
あるいは単に適当なんだろうか。
カーラの仕立屋に寄って料金を支払う。
新人の服は支度金から出してくれているが、別件だ。
正装としても使える新衣装を発注する。
羽帽子、ケープマント、手袋、ブーツ。
ブレザー、シャツ、キュロットスカート。
各種上質素材で、子供達用のフルセットが50万。
欲しそうにしているアンヌにも贈ろう。
6人4小隊とサンドラ、トゥーリカ、アンヌ。
27人分。総額にして1350万。
花人はツタや外皮ドレスで上着と靴が着用出来ない。
ケープ、帽子、手袋のセットで30万。
花人は11人なので330万。
あと、俺とマイナさんに大人用の正装。各50万。
これで仕立屋に落ちるのが総額1780万。
「やった! 前払いだって!」
「店長、お給料の前借り!」
「こぉら、お客さんの前で気が早いわよー」
カーラの店、針子のお姉さんを複数雇っている。
本来ならば自作に拘りがあるカーラさんなのだが。
彼女も意図を汲んでくれている。
発注を出す。針子に仕事が、金が回る。
生地を扱う商人にも金が回る。
需要が経済を回す。ならば需要を供給するまでだ。
物資不足の中、贅沢と言えば贅沢ではあるのだが。
自粛などと称して消費が鈍ると、その道の職人が食えなくなる。
金を落とせる奴が落として、経済を回さないと。
完成は数日後。腕を振るうと言うので期待して待とう。
あとは……昼食だな。そろそろ酒場へ向かおうか。
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