黒鷲の旅団 >14日目(6)ジルケの意地、フィリッパの勇気


黒鷲の旅団
14日目(6)ジルケの意地、フィリッパの勇気

「うそっ! ちょっちょちょちょちょ!」
「やばいやばいやばいやばい!」

 昼食後、子供達とフィールドへ。
 門を開けて貰った途端、遠くからキマイラが3頭駆けて来た。
 飛び出したティルアとイェンナが慌てて戻る。
 敵反応こそ探知していたが、突如の大物に驚いたか。

「迎撃! 3列横隊!」

 レーネの凛とした声が響く。
 門の前に陣取って、銃士隊が速やかに伏射姿勢。
 膝射姿勢の弩兵隊、後ろから立射の弓兵隊が構える。

 斉射。キマイラ2頭が瞬く間に命を失った。
 子供達の隊列の遥か向こうで崩れ落ちる。

 1頭は倒し損ねたか、恐れを成して後退。
 その背で振り返るヤギの頭を、ユッタの狙撃が射貫いた。
 ヤギ頭は死んだ様に項垂れ、しかし別の頭が健在か。
 胴体がドタドタと逃げて行く。

「しぶてぇ! 生きてる!」
「それより次、来るよ!」

 追おうとするカーチャを制し、エメリナ。
 指差すのは左手、林の上で鳥が逃げ散っている。

 林を抜けて何かが来る……のを待つ必要は無い。
 先手、俺。対物火器はRPG-29ヴァンピール。
 着弾。木々を薙ぎ倒して爆炎が上がった。

 ログはトロール戦士数体の撃破を告げている。
 しかし探知魔法。まだ敵反応がある。追撃が要る。

 銃士隊に神経魔法付与。水平に連射。
 当たらなくても、驚けば足は止まる。
 弩兵隊に爆薬魔法、弓兵隊には燃料魔法付与。
 拡散した所で、ユッタが爆薬付き太矢を1本狙撃。
 着弾から着火、林が猛火に包まれる。

「あっ、右! 右はッ!?」
「おっちゃんがやってる!」

 魔法は頭で念じても発現する。
 子供らに魔法付与しつつ、俺は右側を迎撃。
 サイクロプスが、ざっと20体。
 20て、ゴブリンじゃあるまいし。

 対物ライフルのツァスタバM93。
 順次、目玉を撃ち抜いて……間に合わん。
 花人隊に遅延魔法付与。城壁の上へ。
 矢を撃ち込んで侵攻を遅らせてくれ。

 斉射を続け、左の林側は片付いた様だ。
 残りを迎撃しつつ、陣形変更。
 まだ動けていない第2銃士隊を組み込みたい。

 3列横隊から弩兵隊、弓兵隊が左へ展開。
 第2銃士隊は第1銃士隊の後方へ。
 膝射と立射で2列横隊。構えを取れ。

 右側は花人隊を城壁から降ろして前後2列。
 前列が5人だが、アンヌが隙間に納まってくれる。

 次……キマイラが17。
 ノリがオオカミの群れなんだが。
 仲間を殺されたのを認識しているのだろう。
 3つ首の特に獅子頭が、物凄い形相に見える。

「ママ……ママ……!」
『泣かないの! 構えて! こう!』

 怯えるフィリッパに、ジルケが指導。
 後ろに回り込んで、抱き抱える様に構えを取らせる。

「だって、怖いよ……」

『怖いよ。だから戦うんだよ。
 もう、あいつらにやる物なんて無いんだよ』

 キマイラを睨み返すジルケ。
 失った弟を思い出しているのだろう。

「大丈夫だよ。勝てるよ」
「最初はみんな怖いよ」
「綺麗な構えです。自信を持って」
「当てられたら私のタルトをあげるわ」

 ユッタ、マリナ、レーネ、ヘレヴィからも励ましの声。
 喋れないジルケの念話魔法は、緊張状態でもよく伝わる。

 左右を見回すフィリッパ。
 皆の頭が揃って上下に動く。
 フィリッパの横顔が少しキリっとした。

 フィリッパ、息を吸って。
 吐いて、吸って……止めて。
 引き金を引く。先頭のキマイラの顔面に当たった。
 それを合図に他の子達が後に続く。

 撃破、14。3頭は逃げ出すが負傷。
 ヨタっている最後尾をユッタが狙撃。
 足に当たって崩れた所、ヘルヴィが投擲する。
 手斧が飛んで、ヤギの頭をパカッと割った。
 パタリと横に倒れるから、あれは死んだだろう。

「どう? 倒したのは私よ」
「う、上手いね」
「えっ、う…………うぅ」

 素直に褒められて戸惑うヘルヴィ。
 言い返して来ると思って拍子抜けか。
 にこにこ眺めているヘレヴィはお姉さん顔。
 こっちのが妹だって聞いたんだがな……

 ともあれ、一旦でも敵反応消失。
 負傷者は居ないな?
 警戒しつつ進攻を開始してみよう。



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