黒鷲の旅団
14日目(7)箱の娘と仇討ちの依頼
「あー、また死んでる」
イェンナが指差し確認。これは隊商かな。
横倒しになった馬車、食い散らかされた馬の死骸。
人間の死体は無いが、引き摺って行ったと思しき血の跡がある。
門外の魔獣を追い払った後、ハミルトン達の馬車と合流。
首都を離れ、旧鉱山を目指す途中だ。
壊滅した隊商や野営地を幾つか見掛けた。
強力になった魔物に対抗し切れなかったのだろう。
アンヌ曰く、魔物の強化は闇の気配の影響だという。
人が大勢死んだ所で数日経つと、闇の気配が強くなる。
数日……何だか死体が消化されているみたいだが。
それに惹かれて強力な魔物が集まって来る。
街の周りで戦闘続きだったからな……
逆に、闇の気配を散らすには?
マイナさんが言うには、神聖教会に伝わる破邪の奇跡。
あとは、とにかく魔物を退治し続ける、ぐらいか。
冒険者達が自衛を続け、戦争さえ起きなければ。
闇の気配も徐々に納まって行く様だ。
それはそれとして、壊滅した隊商の痕跡だ。
金品を頂くのは道徳上よろしくないが。
他の物資は、無駄に捨てるより頂いてしまおうか。
形見になる様な物があれば、後でギルドに届けても良い。
遺族が見つかるかも知れんし、転移させれば邪魔にならん。
子供達に探索させつつ、俺は周辺警戒に当たる。
探知。反応、赤無し。緑1つ。
……緑、友軍反応だと。
場所。俺達の居る場所。隊商。
脳内マップ表示、光点が重なっている。
索敵範囲を広げ過ぎたか。
探知魔法、ディープサーチ・ナロウ。
範囲を絞って詳しく探す。
大きな剣で串刺しにされた、宝箱?がある。
横倒しになり、鍵が、蓋が閉まっている。
隙間から血が溢れて、地面を赤く染めている。
が、探知の反応はその中だ。
空間指定、解析……人影が3つ。
剣、抜けない。転移魔法で除去。
解錠魔法。蓋を開ける。
酷く怯えた、涙に濡れた瞳と目が合った。
中央に大人の女性。腹を刺され絶命している。
両脇に女の子が2人だが、生存者の反応は1つ。
生きている子は大人に押し潰される姿勢で。
しかし固定されたのが良かったか。
歯を鳴らして、しかし目立った外傷は無い。
もう1人の子は頭を打ったのだろう。
耳から血を流して死んでいた。
診断。死後数時間。
除細動魔法は間に合わんな。
生存者の子を助け上げる。
治癒魔法ヒールプラス。
鎮静魔法ディープカルム。
鎮痛魔法ペインリリーヴ。
マイナさんも抱き締めて宥めてくれる。
死体の傷は縫合魔法スチュアライズで塞ぐ。
母親と、妹かな。出来るだけ綺麗に整えてやる。
見ていて正気を取り戻したか、生き残った子が口を開いた。
「か、かっ、仇……仇を……取って!」
差し出して来る手は震えていて。
握っていた金貨が零れ落ちた。
ワンコインで仇討ちの依頼、か。
1枚とはいえ金貨、10万相当。
危険を排除する意味もある。
血の跡を追えば見つかるかも知れない。
引き受けるに吝かではない。
ただ、箱を串刺しにした剣。
道具を使う知能を持った相手だ。
腕力も相当なものに思われる。
情報は。生き残りの少女曰く、鎧も着ていた。
数は10人以上、沢山。よく分からない。
身体は大きかったと言うから、武装トロールだろうか。
子供達を連れて行って、あまり格上だとマズい。
仮に見つけても仕掛ける前に、まずは偵察が必要だろう。
俺と……えー、ジュス姉さんで見に行こう。
お留守番部隊は2つに分ける。
第1分隊はサンドラ、第2分隊はアンヌに指揮を預ける。
戦果よりも損害を出さない事を重視してくれ。
俺の装備、イェンナにラティオ、ルーシャにツァスタバM93。
ブローニングM2はジルケに預ける。
重いから移動は転移魔法で。
花人隊で植物魔法。茨のバリケードで陣地を構築。
探知範囲に目立った敵は居ないが、戻るまで、どうか無事で。
「ぶっふー! 過保護だわ。すぐ戻るんでしょう?」
「大丈夫だよ?」「平気だよー」
「おっちゃんこそ怪我すんなよー?」
笑って見送られつつ、血の跡を辿って襲撃犯を追う。
追う途中、ジュスが口を尖らせた。
「ちぇー、信用無いなぁ〜」
別に、信用できないから残さなかったんじゃなくてだな。
どちらかは残って貰うつもりだった。
部隊を預けるなら、どちらかと言えば軍略の魔人だろう。
とにかく追って……泥濘に足跡も見つけた。
足跡なんだが、トロールのそれとは思えない。
奴らは足がデカく、人間の装備を奪っても靴は履けない。
しかし残されている足跡は、靴の裏だ。
探知。黄色反応多数。
隠密魔法を使用しつつ、接近して様子を窺う。
流暢な人間語が聞こえ……まあ、想定内だけれども。
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