黒鷲の旅団
14日目(8)鎧を着たモンスター
「なっ、てめぇら、どこから来やがった」
血の跡を辿って追い掛けた先。
俺達が見つけた武装集団は人間だった。
見た所、騎士崩れや敗残兵が野盗化したものだろうか。
隊商を襲ったのはこいつらだろう。
助けた少女は、襲撃犯は大きな身体だと言っていたが。
子供から見たら、トロールも屈強な大人も大きな身体か。
一応、素性と事情を確認しよう。
指導者が居るなら目通りを頼みたい。
「こんな時勢に2人旅か? カモだぜ」
「ま、待てよ。逆に凄腕って事は?」
「あの街道の化け物どもを2人だけで、ってか?」
「おおお俺、お頭呼んで来る!」
ざわざわする野盗に待たされ、少しして。
ボス格らしいのが姿を現した。
「ようこそ我々のキャンプへ。
見た所、平民の様だが……何の用だね?」
身なりの良い貴族、騎士リシャルト。
オースルンド伯爵とやらの配下だという。
後ろに控えさせた大男、名前はヘクター。
こいつが箱を串刺しにした奴だな。
隊商を襲った理由を聞く。
最初はとぼけるが、生存者が居ると告げると反応した。
リシャルト曰く、部隊運営には金が要る。
次の戦に備え、装備と員数を整える様に命令を受けた。
不足は領民から徴発せよ、とも言われている。
そして手段については一任されている。
略奪も辞さないってのは、こいつ自身の判断だと思うが。
それをペラペラ喋るからには、俺達の事も消すつもりか。
「あっはは! それは返答次第だな。
怪物ひしめく荒野を二人旅。腕は立つのだろう?
家臣に加わるなら命は助けよう。
まずは生存者を出して貰おうか」
「こいつ気に入らないなあ、兄弟子くん。
まさかあの子を引き渡すなんて言わないよね?」
「おっと、抵抗するなよ?
伯爵様の家臣に楯突いたら、お前らの家族がどうなるか」
睨むジュス。嘲るリシャルト。
周囲の兵士もニタニタと笑っている。
相手は伯爵様の庇護下。仕方ないな。
ジュス、落ち着け。条件を付けよう。
殺す。ただし、徹底的に殺す。
ただの1人も逃がすな。
伯爵の部下に手を出したのが、俺達だと知られては面倒だ。
「あはっ、お易い!」
「馬鹿な奴め、勝てると思ぐぶぉ!?」
一瞬で、リシャルトの胸から上が吹っ飛んだ。
今のは何だ。縮地は縮地だと思うのだが。
縮地で距離を詰めてから殴った、ではない。
ジュスは掌底を突き出し、相手の向こうに立っていた。
縮地で前へ抜けながら打ったのか?
縮地の移動速度を、運動エネルギーとして上乗せした?
変身魔法を解き、残敵に躍り掛かるジュス。
レベル1021、魔人ジュスティアーヌ。
大半の敵兵は、威圧だけでも動けなくなっている。
しかし、いつ持ち直すとも分からない。
俺も参戦して、サクサク片付けてしまおう。
俺の相手は大男ヘクター。戦槌を手に襲って来る。
こいつが動けるのは、強いからか鈍いからか。
ジュスを真似てみる。縮地、相手の斜め向こう側へ。
しかし抜剣が間に合わん。反転してやり直す。
高速発動技、音速剣を繰り出しつつの縮地。
片手半剣が相手の胴を打ち、しかし弾かれる。
奴の着込んだ分厚い全身鎧が邪魔だ。
鑑定スキルはミスリル・フルメイルだと告げている。
鋼鉄より強いとの噂だが、突破口は無いか。
詳しく見る。解析魔法、密度分布。
ミスリル製だが、ただのミスリル製だ。
単一金属から構成されている。
単一……固有振動数。
超音波か何かで破壊出来ないか。
音響、解析、記録、転写、加速、粉砕。
共鳴振動魔法レゾナンス発動。
甲高い音と共に、相手の鎧全体へ亀裂が走る。
右脇腹を目掛けて縮地・音速剣。
胴を斜めに裂かれ、ヘクターが地面にのたうつ。
「ぎゃああああ! た、助け、助けてくれ!
おおお俺、何も悪くない。命令されただけ!」
命令されたから何も悪くない、だと?
命令されて、しかし従うと決めたのはお前だ。
減刑はあっても無罪とは行かんだろう。
まあ、罪と罰云々について、俺は裁く立場に無いが。
お前さんも、何も悪くないご家族を殺している。
ご遺族から仇を討てとのご依頼だ。
そうでなくとも、足がついて子供らに危険が及んでは困る。
俺は両手剣を振り下ろし、ヘクターの首を跳ねた。
善悪じゃない。諸事情により。
都合が悪いから消えて貰う。
これじゃリシャルトと変わらんな。
「気に病む事なんて無いよ。
ここに人間は居なかった。
居たのは鎧を着たモンスターだけさ」
ジュスが戻って来て、肩を竦める。
まあ、そういう事にしておこうか。
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