黒鷲の旅団 >14日目(9)あっても無くても


黒鷲の旅団
14日目(9)あっても無くても

「ええー、やっつけちゃったの?」

 幾許かの後ろめたさを引き摺って、小陣地に戻る。
 駆け寄って来る子供達には不満の声もあった。

 ユッタ、マリナ、カリマ、アイリスにルーシャ。
 真面目な子、甘えん坊な子が目立つ。
 もっと一緒に戦いたかったかな。
 懐いているか、レベル上げに意欲的か。
 真面目なのも懐いている故かも分からんが。

 伯爵麾下だという騎士団は殲滅後、念入りに証拠隠滅した。
 元々ジュス姉さんの攻撃が激しくて、損壊が酷かったんだが。
 溶解魔法、粉砕魔法を追加。死体は跡形も無くなった。
 今頃は魔獣や野獣の腹の中だろう。

 加えて、装備品は剥がして錬成魔法。
 全部インゴット状にしてストレージに放り込んだ。
 身元が分かるモノも残っちゃいない。
 誰が掘り返したとして、足が付く事も無い。

 民を軽んじる伯爵とやらから、子供達を遠ざける為に。
 必要な措置ではあるが、教育上で言えば、よろしくない。
 知られずに済めば良いんだが。

 いや、薄々気付いてしまっているだろうか。
 斥候班、カーチャとツェンタ、エメリナ。
 知らない靴の足跡を見つけたと言って、難しい顔をしている。

 少し話を反らそう。状況は?
 分隊指揮官及び各小隊、集合。報告を。

 俺が戻るまでに、目立った戦闘は無し……本当か?
 解体中のグリフィン2頭、マンティコア1頭、キマイラ複数。
 これをノーカウントと言い切るのか。
 頼もしくなって来たモノだ。

 これが問題でないとして、他に問題は?
 あったんだけど解決したっぽい、とマリナ。

 子供達は周辺警戒しつつも、採取とお喋りに興じていた様だ。
 そんな中、ヘルヴィが少し揉めた。
 相手はユッタではなくヘレヴィだったという。

 2人だけ、自分と妹だけを頼りに生きて来たヘルヴィ。
 しかしヘレヴィが皆と打ち解けつつある。
 自分から離れて行く様な気がした。気に入らなかった。
 気に入らなくて、自分が遠ざけてしまった。

 ヘレヴィにしてみれば、ヘルヴィも受け入れて貰おうと。
 ……ん? それはもう分かった?

 仲裁に入ったのはユッタらしい。

 イェンナやカーチャも、よく勝手をやる。
 腹立たしいとか、寂しいのが少し分かる。

 しかし、気分を盛り上げるとか、偵察するだとか。
 彼女らにも言い分がある。
 自分の為にやってくれている部分がある。

 だから『もう知らない』じゃなくて『どうして?』だと。
 言ったり聞いたりは大事な事なんだとユッタは言った。
 最終的に、ヘルヴィとヘレヴィは話し合って和解した。

「「ありがとうね、ユッタ」」

 ハモって礼を言う双子の姉妹。
 てへへと笑うユッタ。
 俺の居ない所でも、みんな成長しているな。
 親は無くとも、という奴だろうか。

 それから……助けた子供。名前はクレールヒェン。
 今日の襲撃で両親と兄、妹を失った。
 街に親戚、叔父が居るらしい。
 父とは不仲だったが、自分には親切だったと。
 この子については、親族に引き渡して解決かな。

 しかし道も半ば。一旦、廃坑まで同行して貰う。
 食事と護衛は約束しよう。

 さて、移動再開だ。
 埋葬したクレールの両親に一礼。
 開けた所まで行って一息入れよう。

「そーいや、おっちゃんは何も無かったー?」
「姉ちゃんと何も無かったー?」

 姉ちゃんというとジュス姉ちゃんだが。
 イェンナ、ティルア、何かって何だ。
 何を察したのか、ジュスが胸元に手を掛ける。

「ごめんごめん。気が利かなくて。
 今からでもポロリしようか?」

 予告して出したらポロリじゃないだろ。
 セクシー通り越してワイルドだよ。

「んー……ジュス姉ちゃん、フェド姉、エメ。
 次がマイナ姉ちゃんとかアンゼ姉ちゃん?」

「あら、ジュス姉よりフェドラのが2cmデカいわよ。
 あんたの空間魔法より、あたしの測量魔法のが正確だわ」

 ティルアにアンヌ、公然と魔法の無駄遣いすんな。
 ほら、移動。移動しますよ。

 新技、縮地と音速剣の併用を覚えた。
 先陣を切れば少しは俺も練習に……

「ああー、待ってー!」
「置いてかないでー」

 ダメか。俺が前進すると、子供達が慌てて追って来る。
 置いてかないと、頭で分かっていても、か。
 普段来ない場所、見慣れない道で不安もあるのだろう。
 そして速い子と遅い子で隊列がバラけ、危険が増す。

 俺自身の鍛錬はお預けとしよう。
 各隊、敵を殲滅しつつ前進。
 後ろで見ててやるから、好きに動いてみなさい。



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