黒鷲の旅団
14日目(14)逆転のリーンフォース
「レベルも下。戦闘評価もA−か。
戦う前から勝負は見えている」
「こっちには秘策があるのよ。
あんたには実験台になって貰うわ」
「ほう、面白い。見せてみろ」
相手を格下と見て余裕の魔人ライザネルザ。
対峙するアンヌは手鏡を取り出す。
魔法構築。発動紋は洗脳魔法。
「馬鹿め。そんな物が効くと」
「あたしは強い、あたしは強い……
あたしは、強ーいっ!」
洗脳魔法による自己暗示。
無意識にセーブしている潜在能力を引き出す。
これがアンヌの秘策、その1だ。
アンヌ、踏み込みから掌打。
軽く受け流そうとしたライザを跳ね飛ばす。
体勢を立て直すライザだが、表情には驚きの色。
「ぐう、どうなっている!
メアリー、解析は?」
「レベル775、評価A−のパラメータじゃない。
何だ? 強化と……何か補正を受けている?」
補正。秘策その2だ。
アンヌは今、俺の指揮下に入っている。
俺の統率系スキル。
スキルレベルは歩兵62、魔法兵37。
各スキルレベル%が追加パラメータになる。
元を1として+99%。通常時の1.99倍。
そこに洗脳魔法で更に+30%相当。2.29倍。
仮にレベルを戦闘力として単純計算するならば。
アンヌは今、レベル1728に匹敵する。
まあ、装備だの属性、相性だのの計算もある。
そんな単純な物でもないんだろうが。
「魔人が人間風情の下に就くなど!」
「こいつは手下を自分より大事にしてくれる。
悪い気なんてしないわ。
さあ、これであんた達も終わりよ!
ファイナルあんた達なんだから!」
アンヌ、何か翻訳がおかしいみたいな事を言った?
相手には相手の補正もあるだろう。
『評価A−』というのも分からんが。
解析上のパラメータは軒並み相手の2倍弱。
アンヌはひとまず優勢だ。
「くっ、姉上……そこをどけえええ!」
余裕ぶって見ていたメアリーロアが攻勢を開始。
こちらを片付けてライザの加勢に、か。
メアリーロア、爆炎魔法。
俺は窒息魔法で鎮火。
次に来るのは岩弾魔法。
粉砕魔法の重ね掛けで散らす。
更に毒魔法。えーと?
障壁・解毒・濾過・分解・中和・浄化。
防毒魔法アンチヴァイラスを生成。
設置範囲を通過する間に毒が無力化する。
次、雷鳴魔法……
反射、中和、障壁、抵抗、遮光、防御。
発動、耐電魔法インソリュート。
雷撃ダメージを大きく減衰する。
「銃士の癖に、術者の真似事など!」
見た目、魔術師然とした姿のメアリーロア。
魔人の腕力を、接近戦を使わないのはプライドか。
あくまで魔法に寄る突破を試みる様子。
銃士に魔法で負けては沽券にかかわるのだろう。
銃を持っていれば銃士、か。先入観だな。
パッと見で対策が思いつく様では無策に過ぎる。
メアリーロア、ゴーレム召喚。
クレイゴーレム12、ロックゴーレム4。
更にアイアンゴーレム2体と、次々繰り出して来る。
ソルヴェーグの骸骨騎士達も加勢してくれるのだが。
如何せん、巨体。パワーが凄くて近寄り難い。
「紋様を! 制御紋を壊せば倒せます!」
マグダレーナの助言。
ゴーレム討伐経験者か。
しかし、エメスをエメ、いや、メスだっけ?
どこがエメスだ?
俺にはルーン文字なんか読めないぞ。
まあ、どこでも良いや。
本来の紋様で無くなれば、何か故障するだろう。
紋様の上書き、書き換えを試みる。
溶鉱・錬成と、焼き付けるのって何だ。
軟化、融解、凍結、凝固。
刻印魔法イングレイブ発動。
歪なりに文字が刻まれる。
紋様が変わった部位から機能停止した。
「く、くそ、魔法を作っただと!?
生活魔法なんぞの重ね掛けで!」
工夫と研鑽が足りんな、魔人のお嬢さん。
魔道は足し算ではなく掛け算と知れ。
などと魔術師ぶった事をほざきつつ。
強化魔法。二丁拳銃。魔法付与。
加速魔法追加、回避重視の高機動戦闘。
弾丸は障壁魔法で弾かれるが、物理障壁だ。
物理障壁と魔法障壁は同時に展開できない。
ソルヴェーグの魔法、イェルマグの矢弾も狙う。
ジワジワとダメージが蓄積して行く。
「メアリー、何を遊んでいる!」
「こいつらもレベルの割に戦闘力が高く!」
イェルマイン達は俺の指揮下。
それぞれ魔法兵、弓兵や銃士の補正を受けている。
他方、俺の戦闘力は称号に寄る補正だ。
いつの間にか得ていた称号の数々。
称号『親馬鹿』。
パーティ内の子供の数×15%の補正。
称号『亜人の同胞』。
パーティ内の亜人種の数×15%。
称号『魔女の同胞』。
パーティ内の魔女の数×15%、等々。
『魔女』としても修業を積む半『亜人』の『子供』達。
それぞれから補正が掛かっていて、どんだけだ。
諸々合わせて、俺のパラメータは爆増している。
優勢。だが、これで終わりじゃないだろう。
終わりじゃないからこそ畳み掛ける。
強者の油断と自尊心に付け込ませて貰う。
切り札なんぞ出される前に、敗走に追い込めるか否か。
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