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黒鷲の旅団
14日目(15)魔軍敗走

「なるほど、こうか……イングレイヴ!」

 ソルヴェーグが刻印魔法を放つ。
 ブシュッと音がして、制御紋を乱されたゴーレムが転倒。
 伝授したばかりで、もうモノにしている。

 不死者に、モンスターに新魔法を伝授。
 神聖教会とかに知れたら怒られそうではあるが。
 それでも戦力だ。今は頼りにしたい。

「要領は心得た。貴公も手腕を振るうが良い」

 足止めはソルヴェーグが代わってくれた。
 俺は不死軍団の指揮を預かり、指揮官として戦況を見る。

 前衛。骸骨騎士団は健在。
 頑健だが遊兵も居る。少し弓兵が欲しいか。
 花人第2小隊を武器作成に回す。
 転移魔法コールストレージ。
 俺に譲って貰った弓を騎士団に配る。

 丘の上、子供達からの援護射撃。
 滞って見えるのは、敵側の強力な防御か。
 敵本陣に矢弾が届かいていない。

 斉射。火矢の火線が見える……が、防がれた。
 物理障壁だけじゃないな。
 敵本陣、ブレンダルシア周辺が霧に霞んでいる。

 焦熱、乾燥、風、強化、加速、空調。
 熱風魔法フェーンストライク。
 乾いた熱風が霧を薙ぎ払う。

『おっ、やった!』
『今だ! オヤジがくれたチャ〜ンス!』
『すぐに火矢を! 一斉射!』
『誰か燃料魔法くれ!』『今行くー!』

 霧が晴れた途端、通信の混線。
 瞬く間に火の手が、爆炎が上がる。
 どずん、ぼごごご。どがん、ぼがん。
 子供達、随分と張り切ってくれている。

 今の所、丘を登る敵兵は無い。
 敵将ブレンダルシアがチラチラ気にしては居るのだが。
 同行しているジュスを刺激したくないらしい。

 ブレンダルシア、チラチラ。
 気になるのは子供達の主軍と、そして姉達の戦況。

 姉、魔人メアリーロア、一進一退。
 イェルマグの立ち回りは堅実だ。
 ソルヴェーグも供回りの骸骨騎士を上手く操っている。
 近接を阻害しつつ、遠射でHPを削って行く。

 他方、魔人ライザネルザと……アンヌ。
 アンヌが少し苦戦している。
 敵方も潜在能力か何かを解放したのだろう。

 しかしアンヌ、楽しそう。
 そもそもが、軍略の魔人を名乗る知力タイプだ。
 格上の武闘型相手に、互角に渡り合う機会は少ない。
 何か万能感の様な物を感じているのか。
 楽しむのも良いが、勝ってくれないと困る。

 設置発動。治癒、強化、防御、抵抗、加速、活力魔法。
 アンヌに通信。気が付いて接近、縮地でスパパと踏む。
 支援効果を貰って、また戻って行く。

 ……どすん。

 不意に巨大な鳥が落ちて来た。
 これはガルーダという奴か。鳥型モンスター。
 上空に居た奴を、誰か狙い撃ちしている。

 見上げて……ああ、納得。
 空一面にガルーダの群れ。
 いつの間に展開させていたんだ。

 狙いは奇襲か、包囲殲滅か。
 隠密魔法も掛かっていた様だ。
 知覚した途端、探知魔法の脳内レーダーに感。
 数は30前後といった所。

 ふと、意を決し、ブレンダルシア突貫。
 あの慌てた顔。奇襲じゃなかった?
 ガルーダは単に避難させていたのかも知れない。
 先陣を切って来るのはもう、ヤケクソか何か。

 迎え討つ骸骨騎士団、激突。
 流石のレベル差か、ブレンダルシア。
 彼女に殴られた骸骨騎士達が、端から爆散する。

 俺が治す。整復魔法フルリダクト。
 バラバラになった骸骨が再生、再び騎士の姿で立ち上がる。

「スケルトンに効く治癒魔法って何だソレー!?」
「えっ、何?」「何と!?」

 魔人から不死者から、みんな興味持っちゃった。
 後だ。説明は後にせい。

 こりゃダメだと、ブレンダルシア後退。
 メアリーロアも隙を付いて脱出。
 上空のガルーダも下がって行くから……敗走かな。
 アンヌとライザはまだ戦っているが、

「あっ、な、何!?」

 丘を見上げて立ち止まるライザ。
 一瞬感じた冷たい殺気はジュス姉さんの物だろう。
 何かアンヌと言い合って、逃げて行くライザネルザ。
 まだ隠し玉があると思ったんだが、温存しただろうか。
 アンヌ、追わなくて良いぞー?

 ひとまず勝利。一息ついたらソルヴェーグと休戦協定だ。
 あと、キャンプや晩飯の支度をしないと。
 もう日が傾いて来ていた。
 今日中に廃坑までは辿り着かんな、こりゃあ。



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