黒鷲の旅団
14日目(18)魔王の理由
「お、おおう……どうぞどうぞ」
アンヌを寝かしつけて、リンク切断。
現実世界側の俺は、ペーターの部屋へ出向いた。
聞かずには居られなかった。
大勢の我が子を犠牲にして、戦力を急増。
そこまでして何に挑み、何に勝とうというのか。
「あ、ああー、うん……それはですね。
実は僕にも、よく分かってなくて」
……ぶつよ?
「わあ! ホントなんです聞いて下さいって!
怖いなあ、そこまでムキになるなんて。
ハインさんも気付いちゃったクチですか?」
気付いちゃった、とは。
あの世界がゲーム世界ではなく異世界ではないか。
住人はNPCではなく本当の異世界人ではないか。
……そこまで気付いていて、あれか?
ペーターにはペーターの理由がある様だ。
つまらない理由だったら殴るとして、まずは聞こう。
まず、よく分からん、というのは何だ。
ペーターは大量に課金して、遥か昔にコピー人格を転送。
そこから……こっちの本人とリンクし切れていない?
ペーターの開始年代、およそ1万年前。
一体幾ら注ぎ込んだんだ。
1年遡るのに幾らとか聞いたんだが。
「いやあ、金額はまあ、ゴニョゴニョですが。
世界を作ったっていう運営を試してやろうと思ったんです。
本当に世界が1万年前まで作ってあるのかって。
行ってみて、実際に1万年前の世界があって。
もしや、作ったんじゃない、んじゃないかなーと」
そんな理由から異世界疑惑に辿り着くとは。
それで発生した1万年分の記憶データ。
そんなモン、全部受け取っていられない。
幾らも読み飛ばしているという。
結果、現実のペーターと魔王のペーターは乖離した。
元の人格は同じでも、歩んで来た経験が違い過ぎる。
たまにリンクしてみても、共感し切れない。
何でこんな事しているんだろう、という事も少なくないのか。
しかし、要点として得た情報が幾つか。
世界全土で死者の合計レベル?が一定数を越えた時。
その原因が戦争であれ災害であれ。
バランスを取る為と称し、神が介入して来るらしい。
圧倒的破壊力で、人命や資源、戦力を削り取って行くという。
「苦難にあえぐ民の為、なんてモンじゃないですよ。
あれは意地の悪い愉快犯の類です」
愉快犯。何度かの神様トークを見て確信したという。
神々が“イベント”を作っている節がある。
苦難だの引き合わせだのと称した運命操作。
人々を駒に見立ててサイコロ振って、苦難を寄越して。
そして苦難を与えられた側がどうするか、観察している。
まあ、見た目に限って言うならば。
守護天使、神聖教会で見た像や何か。
印象はギリシャ神話っぽかった、だろうか。
導くとか救うのと縁遠い、自堕落で享楽的な神々とか。
魔王様は1万年も生きて、相応に勢力を広げた。
しかし幾度となく神の介入に阻まれた。
少なからず妻子や民草を殺され、領土を失って。
この狙い撃ちに、魔王ペーター憤慨。
今度来たらブッ倒してやろうと、戦力を集めている。
手段は選ばない。蟲毒にせよ、人類検証計画にせよ。
あの世界を神の手から解放する。
神の遊戯盤ではなく、自立した世界にする。
その為に、サイコロを振る神々を引き摺り出して倒す。
何を犠牲にしても、倒さなければならない。
魔王は魔王なりに信念を持って行動しているのか。
ヨルクやクラウス氏、アルド達が死んだ原因。
その一旦を、神々が確かに担っているのなら。
少なからず物申したくあるのは俺も同じだ。
しかし……その為に。
何千何万と子供達の犠牲を積み重ねる。
そのやり方は果たして正しいのか。
「まあ、何しろ魔王ですからね。
非難を受けても最短ルートという事なんでしょう」
肩を竦めるペーター。
魔王のペーター様は交渉系スキルのレベルも高いのだろう。
現実側からリンクして内省を促そうとしても、逆に流される。
もう1人の自分に理詰めで説得されてしまう。
あるいは凄惨なエピソードの数々に同情してしまう。
現実のペーターから魔王を制御するのは難しい。
しかし、要は悪を好む大悪党ではない。
超に超が付くリアリスト、という事だろう。
そして手段を選ばない。方針がまだ迷走している。
力でも言葉でも、屈服させるのは無理だとして。
次善の策。酷い事をしなくても勝てる方法が見つかれば良い。
見つかるか……探してみないと分からんが。
方向転換の余地自体はある。多分。
魔王を倒す取っ掛かりまでは見つかりそうだがな……
それが神にも通用するか、分からん。
神人が復活する世界だ。神も多分、復活するだろ。
パラメータも、どれだけ盛っているやら。
レベルやパラメータの差を埋めに埋めて。
後は例えば、防御無視空間消滅魔法、みたいなのが無いと。
そんなモン派生させようにも、元になる魔法が思いつかん。
思いつかんけど……何とかしたいな。
あと話がしたいのはカシューさんなんだが。
連絡がつかない。後でこっちから出向いてみるか。
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