黒鷲の旅団
15日目(1)黒鷲さん行水する
「えっ、あ、あのね……甘えて、良いんだよね?」
あー……ああ、うん、そうだった。
朝食後、風呂に入りそびれたアンヌが朝風呂に。
温泉魔法で沸かし直しをしていると、フェドラが寄って来た。
俺も入ると思って、一緒に入る、背中を流すと言い出して。
やんわり拒否したら、悲しい顔をされてしまった。
どうしたのか聞くと……そういう事か。
フェドラは発育が良い。が、それは身体的な話で。
中身はまだまだ甘えたい盛りなのだ。
両親からは孤児院に置き去りにされた。
半魔故に、シスター・メアリ達とも距離があった。
孤独を感じて育った少女。
彼女は大人の愛情を、スキンシップを求めているのか。
抱き寄せて、頭を撫でて、言い聞かせる。
嫌いになったりしないから。
でもオジサンが恥ずかしいから、お風呂はまた今度な。
フェドラは物凄く嬉しそうな顔をして、頭を摺り寄せて。
また今度、絶対だよと、ピョンピョン跳ねて離れて行く。
水着を作るか買うかしてやらんとなぁ……
さて、俺も風呂入らないで寝てしまった。
アンヌが終わったら風呂に入るとして……その前に。
「ん、まあ、なるべく手加減するけど。
骨折ぐらいは勘弁してよね?」
ジュス姉さんと組手。
俺もいい加減、近接の練習がしたい。
錬成、クリエイト・ウッドマテリアル。
木工スキルで簡単に加工して、木刀2本。
少し距離を取ったら、摸擬戦開始。
「シャッ!」
ジュス、踏み込みからの袈裟斬り。
早々に首狙いとは、手加減どこ行った。
殺す教育しか受けてないな。
魔人の怪力。マトモに受けたら折られる。
右足を半歩引きながら、相手の木刀を木刀の上に滑らせる。
衝撃と摩擦熱、木が焦げた匂い。
ジュス、居なされて意外そうな顔。
から、歓喜。舌なめずり。獲物を見つけた顔になる。
歩幅を細かく刻んで連撃を見舞って来る。
俺、後退。後退しつつ武器受け。
パリィ、返し刃、巻き打ち、柄打ち。
峰に手を添えてハーフソードの構え。
下がる。下がる。下がる。
半歩でも距離を稼がないと、次撃に間に合わない。
旋剣、納刀姿勢から、居合い、返し刃。
燕返……しが派生してるけど、返せてない。武器受け。
半歩レベルの縮地反復、音速剣、抜刀術フルオート。
まるで押し返せない。これが到達者、レベル4桁の実力か。
「あはっ、そこだあ!」
調子に乗ったジュス、強撃。
こちらの木刀の強度を読んだな。
武器受けすれば確かに折れる。
ので、俺は右手を刀から離す。
木刀を素手で受けた。ミシリと骨が軋む。
軋んだけれども、ジュスの木刀も折れた。
「あっ、ちょ……ふぎゃっ!」
ぽこす。おでこに軽めの一撃。
丁度、俺の木刀も折れて……一息つこう。
次の木刀を作らないと。
「えー、お終い? へへへへ。
いやー、楽しい楽しい。良いよキミ、うん、良い」
3セットやって終了。
俺は結局の所、最初の1本しか取れなかったが。
汗ばんで、胸元をパタパタさせながら、ジュス。
久々に運動になったと楽しそう。
汗を流しに風呂? ああ、はい、お先にどうぞ。
一緒に? いや、良いです。
「あははは、照れてるのかい?
ボクなら変な気起こしても良いんだよ?」
あー、うん……またの機会なんかあればね……
子連れで色っぽい展開も無いモンだ。
もうカリマとか、甘えん坊達が駆け寄って来ている。
分かった分かった。構ってやるから。
まずは疲労回復としよう。
治癒と鎮痛、解熱、活力、整復魔法。
サンドラが飲料代わりの魔力薬を持って来てくれる。
と……もうジュス姉さんが戻って来た?
カラスの行水だな。
昨日も風呂入ったからサッとで良いのだと。
アンヌの方は、まだ湯に浮いているらしい。
誰か、のぼせる前に回収してやってくれ。
ふと探知に感。緑、来客の気配。
斥候のカーチャ、魔女の姿が見えたと。
ああ、もう。俺が風呂に入る暇が無い。
水魔法。被る。洗浄、浄化、解毒、消臭、乾燥魔法。
こんなモンで良いだろ。お客さんを出迎えよう。
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