黒鷲の旅団 >15日目(3)そっちは計算外


黒鷲の旅団
15日目(3)そっちは計算外

「えーっ、探検行かないの?」
「ダンジョン〜……」

 何だかガッカリのイェンナ、ツェンタだが。
 ダンジョンじゃない。廃坑だよ。

 ソルヴェーグと別れ、廃坑まで無事に到着。
 内部調査はハミルトン爺さんとジュス姉さんで行く。
 封鎖された入り口は問題無く封鎖されていた。
 無理に破った様子は無い。
 賊や大型の魔物も侵入していないだろう。

 俺達の任務は、廃坑までの護衛だ。
 大勢で入っては動き難いし、迷子や崩落が怖い。
 銃士隊は戦闘になった際、跳弾の恐れも出て来る。
 ここは専門家と弟子に任せよう。

 一応、ヘビや何かの対策として。
 爺さん達には解毒薬と転移スクロールを持たせる。
 昼飯までには戻るというので、ここで待つ。
 2人を待つ間、俺達は周辺警戒や装備の点検だ。

 同行しているイェルマイン隊は、隊を2つに分ける様子。
 マグダレーナとお姉さんチームが巡回。
 イェルマインと少年兵チームが残ってこちらの支援態勢。
 交流したかろう子供達にも配慮した様だ。

 結局のところ、ローダとテクラはジェイム達の知り合いだった。
 改めて自己紹介したいと……どうした?

「あ、あのっ、ハーフノッカーのローダです!」
「ハーフサラマンダーのテクラです。隠していてゴメンナサイ」

 俺のパラメータ、補正値の計算が合わないと思ったら。
 2人とも半亜人種だったのか。

 半亜人種なのは、ご主人様にも言っていないという。
 過去に差別を受けて、互いに誓って隠していた。
 しかし、うちは人間の子と亜人の子で待遇に違いが無い。
 隠している事が後ろめたくなったのか。

 サラマンダーは火の精霊だとして。
 ノッカーというのは鉱山の妖精らしい。
 街に戻ったら、魔女協会の授業も受けさせてやりたいな。
 火や土の魔法に適性があるかも知れない。

「ダンピールのレーネです。改めまして」
「半魔人のフェドラだよ〜」
「あっ、あたし火竜! 半竜人のマルカ!」

 半亜人のカミングアウトを、他の子達は喜んで歓迎した。
 改めて自己紹介返し、が始まっている。

「いいなー……そっちのが住み易そう……」

 ラウル、ボソリと感想。
 ハーフシルフの兄妹、ラウルとチキータ。
 何か不便があるのか?

 先輩少年兵のエリック達とは仲良く出来ている。
 お姉さんチームも基本的に優しい。
 ただ、お祈りとか礼拝とか、生活の基本が神聖教会寄り。
 お祈りしないと落ち着かない人々が居て。
 しかし被差別種族、教会に出向きたくないメンバーも居ると。

「ああー……それ、なあー……」

 話を持ち掛けるとイェルマイン、ぐでーんと引っ繰り返る。
 彼にとっても頭の痛い案件である様だ。

 大人女性陣は子供達の教育に熱心で。
 それはそれで良い事なのだが、押しが強いのが心配。
 世間に出しても恥ずかしくない様にと、お作法にもウルサイ。
 気まま竜騎兵イェルマイン、彼自身も肩が凝るのだろう。

「その辺、旦那のトコは伸び伸びしてて良いっすな〜」
「のびのびでも、お祈りは必要ですっ!」

 口を挟んで来た女の子。誰だっけ。新人?
 この前から見た気がするが、紹介がまだだった。
 クロエ嬢。騎士ギャレットの娘さんらしい。
 年頃はユッタ達とそう変わらない様に見える。

 最初うちに入りたかったが、止められて……
 まあ、神聖教会とゴタゴタしてるからな。
 その後、妥協点としてイェルマイン隊に入ったというが。
 今では懐いたのか、将来の夢はイェル様のお嫁さんらしい。

「なははは! いやー、照れちゃいますなあ」

 そんな節操無しに喜んでいて良いのか、イェロマインよ。
 将来美人だろうとかは否定しないけれども。
 セクシーなお姉さんと飲みに行くどころじゃなくなるぞ。

 そもそも神人、転生者。ハーレム作りたがる奴が多過ぎる。
 スキルや何かで優遇されて、勘違いしていないだろうか。
 戦闘能力がチートでも、法の下には平等だと思うんだが。

 そして中世世界、貞操観念は現代より厳しいと思うんだが。
 羽目を外す神人と、唯人に広がる悪評。
 女の捕虜を取る度に、襲われるとか言われるトバッチリ。
 まあ、今持ち出しても仕方ない話か。

 で、この、小さい奥ちゃん候補の言う事だが。
 お祈り、今日も飢える事無く、恵みに感謝云々だとか。
 うちの子らも教会に行かないだけで、作法は理解している。
 マイナさんの指導もある事だし……

 と、思いついた。従軍牧師というのがあるんじゃなかったか。
 亜人種にも理解ある人材が見つかるか分からんけれど。
 ついて来てくれる人が見つかれば、解決しないか。

「な〜るほど。教会に行かないでもお祈りできりゃあ良い。
 今度首都に戻ったら聞いてみま……なんじゃ、ありゃあ」

 イェルマインが伸びをし掛けて、固まった。
 何かの光の束が、丘陵を下から貫いた?
 次いで、廃坑の丁度真上だろうか。何かの魔法陣が見える。

 ぷしゅん、と音がして……ん、転移魔法?
 姿を現したのはハミルトン爺さんとジュス姉さん。

「みんな逃げろ! ヤバいのが来るぞーう!」
「無理! あれはボクでも無理!」

 ヤバい? レベル4桁のジュス姉でも無理って何だ。
 再び魔法陣が機能し、2人を追って何かが現れる。

 ……いや、待て。何だか機動兵器に見えるんだが。



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