黒鷲の旅団
15日目(4)苦い退却
「で、でっけぇー……」
「な、何すかね、あれ……」
ポカーンと見上げるイェンナとフレヤ。
お前さんら、感心してないで下がってくれ。
廃坑の上、転移魔法陣から姿を現した巨体。
人型の人工兵器と思われる、のだが。
しかし、ゴーレムってデザインじゃない。
可愛げの無い鋭利な外観。両手には長い銃器。
背部スラスターによりホバリング。空中に留まっている。
人型機動兵器、の様に見える。
しかし、あれが機動兵器だとすると。
地下からぶち抜いて来たのはレーザー兵器の類か?
ジュスと爺さんが駆けて来る。
それを追いかけて来る様子は無い。
地下の何かを守っていた番人、だろうか。
後退。刺激しない様に。
ぱかん。銃声。ちょっ、誰が撃った。
「あ、あ……っ!」
フィリッパ。恐怖に負けてしまったのか。
機動兵器の注意を引いてしまった。
駆動音。飛翔……こっちに突っ込んで来る!?
「わああっ!」
「迎撃! 迎撃を!」
ぱぱん、ぱかかん。硬いな。
牽制射撃するも弾かれている。
俺は防御魔法を用意しつつ敵を観察する。
奴は特に攻撃する事も無く上空を通過。
そのまま高度を上げて行く。
取るに足らないと見て見逃すか。
いや、そう都合良くは行かないだろう。
上空に上り、反転して銃を向けて来る。
銃口が、青白く光って……
「いけない! 反射魔法!」
レーネ、違う! 障壁魔法!
咄嗟に反射魔法を展開するレーネとエメリナ。
これが俺の障壁魔法に干渉。打ち消してしまう。
しまうけれども、速射の障壁再展開。
出遅れた。障壁魔法にレーザーが着弾。
防ぎ切れずに障壁表面で爆発。
レーザーが乱反射、拡散する。
「ぴゃあっ!?」
「きゃあああ!」
拡散したレーザーの一部が、俺の頭上を越えて後方へ。
爆発音。悲鳴。損害は……振り返るのが怖い。
怖がってる場合じゃないが、しかし敵からも目を離せない。
探知。負傷者。HPゲージ減、多数。
動けるか? 衛生担当、応急処置を。
その間に次撃は……来た。障壁魔法。
距離と密度を変えて3重展開。
2枚抜かれるが、それでも耐えた。
レーザーは跳弾する形で後方、遠くの空へと散る。
どうにか防げるのを確信して、振り返る。
一瞬振り返って……ああ、くそ。
花人が、カトレアンナが右肩から左脇へ真っ二つ。
HP残り5%弱。ヤバい。すぐに治療が要る。
「あ、ああう、ああうあああ……」
「わあああ、体液が! これ造血? 造血で良いの!?」
「分かんねーよ! あああ、どうしよう!」
フレヤ中心、弓兵隊の急造衛生班、混乱中。
落ち着け。とにかく治癒、止血、縫合魔法。
止血……血? 花人の身体はよく分からんけれども。
まずは傷を塞いでくれ。変になっても後で必ず治す。
敵を睨む。睨みながら動揺を鎮める。
落ち着け、俺。助ける道はある。無いなら作る。
幸い、敵は今の所でも、近接攻撃をして来ない。
少し落ち着いて来た。遠見魔法で後方を見る。
ルーシャが義手を半壊させている。
ノイエが血だらけなのは、破片を食らったのか。
あとは火傷数人。擦り傷は転倒から。
各自、治癒魔法。出来る限り治癒。
カトレアンナの失血、HP減少は止まったか。
真っ二つからは繋がらず、まだ酷い有様だが。
それでもHP残量は2割強まで回復している。
レーザー、第3射。障壁多重展開。
そろそろ焦れて突っ込んで来そうだ。
逃げるにせよ、というか逃げるしかないが。
一手打たないと、逃げる間に撃たれる。
奴が本当に機動兵器なら……
子供達に移動の用意をさせる。
腰を抜かしてるのはフィリッパ。爺さんに担いで貰う。
アンヌとジュス姉さん、カトレアンナを運んでくれ。
黒煙魔法ヘヴィスモーク。
砂塵魔法サンドストリーム。
熱風魔法フェーンバースト。
熱波と煙の壁を作る。
熱源探知と光学センサーは欺けるハズだ。
今だ。加速、隠密魔法。
全員退却。廃坑の中に一時避難する。
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