黒鷲の旅団
15日目(5)カトレアンナ分裂する
「よーしよし……そうだ、行っちまえー……」
廃坑入り口から外を見張るイェルマイン。
件の機動兵器はこちらを見失ったらしい。
守るべき場所へと戻って行く様だ。
どうにか一難去っただろうか。
「あーうー……ご主人〜……」
右肩から左脇へ切断されたカトレアンナ。
残った左腕を伸ばして来る。大丈夫か?
解析情報を見る限り、失血や何かのHP減少は無い様だが。
それでも身体の半分以上を損傷。重体に違いは無い。
「だいじょぶ……でも、眠いなー。ちょっと寝るなー?」
寝たら死ぬ類じゃないだろうな。
身体が回復や自己保全を促しているのだろう。
切断された半身は、縫合魔法では接続出来なかった。
体組織が少なからず死んでしまった様子。
壊死は始まっていないが、接続する手段が見つかるかどうか。
花人隊の代表として、アンゼさんに花人について聞く。
大きな傷を負った場合、多くは枯れてしまう。
しかし、カトレアンナは見た限り、助かりそうだと。
カタコトで分かり難いが、大事な部位は助かった?
失った所も段々生えて来るだろうという。
花人の生命力に驚愕すると同時。
これが他の子だったらと思うとゾッとするな……
「すみません。私が判断を誤ったから」
レーネ、お前のせいじゃない。
光学兵器だなんて、知らなきゃ魔法だと思うだろう。
フィリッパは号泣中。泣くな……いや、泣け泣け。
落ち着くまで泣いて、気持ちを整理しよう。
フェドラがハグ、相手してくれている。
他の子達も、すぐに助けに行けなくてゴメンな。
「い、言わなくて良いよ。大丈夫だよ」
「スゲェ怖い顔して、敵睨んでたよな」
「守っててくれたんだよ。分かるよ」
口々に許してくれる子供達。
慕われている反面、責任の重さも感じる。
俺が下手を打つと全滅しかねない。
身体の鍛錬だけじゃなく、思考も研ぎ澄ませないと。
踏み堪えたとは言え、仲間の負傷に動揺した。
俺もまだまだ修行が足りん。
じゃあ、カトレアンナは少し様子を見るとして。
すぐ外へ出るのも怖い。
このまま他の子達の治療に当たろう。
ルーシャの義手損壊。破片を浴びたノイエは大丈夫か。
ルーシャが転移魔法でノイエに刺さった破片を除去していた。
「ごめんなさい。余計な事した」
「ううん。庇おうとしてくれたんだよね」
俺も手伝おう。破片を除去。然る後、治癒魔法。
少し跡が残ったが、形成外科魔法で治せる範囲だった。
他の子は……ペトリナとテルーザに火傷。
ペトリナは軽傷。肌が少し赤くなっている。
水系種族、火に弱いテルーザは肌が少し爛れていた。
抗血清、免疫魔法。感染症も予防しないと。
錬成魔法、鉄。複製魔法でバケツを作る。
水魔法、氷結魔法。2人に与えて冷やさせる。
ケープを外してタオル代わりにするマリナ。賢い。
霜焼けにならない様に、時々出してな。
診断は浅達成が何とか。浅いと言うから治る方だと思う。
転倒、打ち身や擦り傷は……大丈夫かな。
各自、治癒魔法で治している様だ。
心のケアも心配だが、お喋りが始まっている。
お互い落ち着け合ってくれるのが有難い。
あとは……サンドラちゃん、すてててて。
走って少年兵、テオドール達を呼びに行く。
負傷者を見つけたのか。目ざといな参謀ちゃん。
イェルマグ隊は魔法持ちが少ない様子。
治療費なんか取らんから、不調者はこっち並んでくれ。
マグダレーナ、そっちの隊の損害は?
馬を何頭か殺された様だ。
人死にが無かっただけ良かったか。
「おっちゃん! 大変だ!」
イェンナが呼びに来た。どうした。
カトレアンナの容体が急変した?
駆け付けると、慌てたティルア、泣きそうなツェンタ。
カトレアンナは繭みたいな形にツタでグルグル巻き。
え、これ、何。どうなった?
「ツェンタが植物魔法使ったんだ」
「何か助けになると思って。ど、どうしよう」
不意に上体を起こすカトレアンナ。
うつ伏せになり、背中にヒビ。そのまま背中が割れて、
「ぴゃっ!」
背中の中から、小さいカトレアンナが出て来た?
「ぴゃっ!」
同じ声がもう1つ?
振り返ると、もう半分の身体からも同じ様なのが。
えー、何だ。何だコレは。
悪い状態ではないと思うが、急過ぎてついて行けん。
アンゼさん、ヘルプ。何だコレ。教えてー。
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