黒鷲の旅団
15日目(6)変わっても変わらずに
「ぴゃっ!?」「ぴゃっ!?」
上下の半身から出て来た小型カトレアンナ。
お互いの姿に驚いている。
本人的にも予想外の展開なのか?
「あーう、これ、株分けだなー」
アンゼさんの説明。
株分け、とは何ぞや。
花人は身体を切断されると、残った体組織を再構成。
足りない分だけ小さくなって、中から生まれ直して来るのだが。
切り取られた部位も大きい場合、そこからまた生えて来る。
つまり両方とも、再構成されたカトレアンナなのか。
同じ記憶を持った分身体。
そのまま一緒に居ると、精神に変調をきたすという。
普通は小さい方が旅に出る風習だというが。
どちらも似た様なサイズで、序列はつけ難い。
「やだやだー。ご主人と一緒に居るー」
「お別れツラいー。ずっと一緒〜」
当人達も懐いており、追い出すのも心苦しい。
しかし、そうか。複製体。
これは電脳のコピーと同じだ。
そのままだと精神に変調が。
対処は、どうするんだった。
そう、確か、お互いが別人と認識出来たら良い。
あとは普通にしていれば、双子程度には分化するハズ。
平等に、2人とも改名します。
上半分から出た方をカトレ……アンヌだと被るな。
カトレアーニャとします。はい、覚えて。
下半分から出た方は、カトレアーネとしよう。
錬成魔法。鉱石から、簡単なアクセサリーを作る。
星型と月形の飾りを作って紐で吊るす。
アーニャに星、アーネに月をあげよう。
ひとまずこれでお互いを区別してくれ。
「私、今日からカトレアーニャだなー」
「私がカトレアーネだなー。よろしくなー」
良かったー、とツェンタ号泣。鼻汁拭いて。
廃村で避難中、助けに来たのがカトレアンナだった。
特に思い入れの強い友人なのだろう。
姿や何か変わっちゃったが、変わらず仲良くしてやってな。
それにしても、ツェンタの植物魔法だ。
アンゼさん曰く、カトレアンナは確かに活性化した。
再構成から再誕まで早かったという。
治癒魔法に植物魔法が混ざり、何か機能した可能性がある。
ツタの切れ端で試してみる。
治癒、植物、活力、錬成、造血、整復魔法。
派生は……培養魔法カルティベート?
ツタの切れ端がウニョウニョ延びる。
葉っぱや根っこまで生えて来た。
これ、人体にも転用できるか?
自分の切り傷に。回復する。
テルーザの火傷は。爛れが納まって行く。
炊き出しの時の患者で、重度の火傷で苦しんでいた娘がいた。
クリスドゥラだったな。この魔法で治してやれるかもしれない。
街に帰ったら訪問しよう。ツェンタ、お手柄だよ。
落ち着いた所で、例の機動兵器について検証。
イェルマイン、マグダレーナが外へ出てみた。
特に戻って来る様子は無い。
やはりガーディアンの類かな。
ハミルトン爺さん曰く、奴の出所は地下遺跡だ。
廃坑の中で鉱脈の調査の為、ジュス姉が掘削した。
その怪力は岩盤を貫通し、眠っていた遺跡まで開通。
古代の高度文明の遺産。興味深い遺物ではあったが。
良い事ばかりではなく……番人のアレか。
「あんなのが居るんじゃ、この山は諦めるしかねえ。
ユッタまで真っ二つにされたんじゃ堪んねえぜ」
「でっ、でもでも、アレ1体だけでしょ!?
何とか、やっつけらんないかなぁ……」
諦めムードの爺さんに対し、ジュス姉は撃退希望。
俺としても、古代遺跡は気になるし。
鉱山の復興は物資不足の解消に繋がる。
第一、あんな物を野放しにしておきたくない。
しかし、どうやって倒す。
新式銃、ユッタのティンバーウルフでも弾かれた。
まず情報として、奴の素材は何だろう。
「パッと見、銀色だったけど……銀ならもっと脆いでしょう?
ミスリル銀でも、切断には強いけど貫通には弱いハズよ。
もしかしたら、アダマンタイトか何か……」
アンヌの考察。アダマンタイト。伝説級の金属か。
魔王領でも数える程しか見た事が無いという。
神の金属。ではもし、あいつに一矢報いる事が出来るのなら。
いずれ来る、神の降臨とやらに対抗する余地も出るだろうか。
他に情報は。誰か、あいつのレベルを見たか?
イェンナやアンヌが解析魔法を使っていた様だ。
レベル4800……おいおい。
およそレベル5千程度だとして。
レベル1千が5人で匹敵する物ではない。
防御力が単純計算で5倍。
それぞれの攻撃が通用しなくなる。
いよいよ防御無視の攻撃手段が要る。
防御無視……になるか分からんが。
魔法で何か作ってみよう。
問題は、どう当てるかだな。
瞬殺レベルの危険に子供達を晒せない。
やるなら俺とイェルマグ、アンヌとジュス。
この人数で、あの機動力を足止めできるか。
選抜メンバーで1度だけチャレンジしてみよう。
それでダメなら、一旦出直すか……
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