黒鷲の旅団
15日目(8)決断の自己犠牲
『ほいほーい。毎度あり―。
転移の魔法で転移の魔法を送るって、何か斬新だねえ』
魔女協会に通信、応じたのは上級魔女カトラ。
今日の受付はフッケバエナ派の当番らしい。
通信内容だが、帰還スクロールを購入。
転移魔法で金銭と物品の遣り取りをする。
……なるほど。転移を転移か。
概念めいた発想だな。
何かのヒントになるかも知れない。
さて、攻略準備。帰還スクロールを配布します。
機動兵器の攻撃は強力だが、種は知れている。
光学兵器は魔法の様で物理攻撃だ。
障壁魔法さえ絶やさなければ、即死は免れるだろう。
あとは念の為、ツーマンセル以上で行動。
相方が負傷したら帰還スクロールで離脱とする。
手順だが、まずジュスが地下遺跡へ侵入。
ターゲットを外まで誘い出す。
待ち伏せるのは脱出用転移魔法陣の外。
出会い頭のフルボッコ。一斉射、全力攻撃。
その後、正否を問わず散開する。
背部スラスター、飛行ユニットを破壊出来れば地上戦へ。
失敗した場合は地対空戦闘となる。
「その、すらすたー?とやらは破壊できるのか?
神金だか神銀製だと聞いているが」
ベルナの問い。正直な所、分からん。
魔法世界に機械文明の産物。
何を使って浮力を得ているのかも不確かだ。
噴射口から燃料に着火できれば……どうだかな。
まあ、勝敗については拘らない事にする。
戦闘開始……見通しが甘かった。
いっそ、もっと拘って下準備するべきだった。
ジュスが脱出。続く機動兵器。
一斉射撃が俺とアンヌ、炎。
イェルマイン、マグダレーナが雷属性。
ブラン、水。ジュス、錬成系魔法。
エンヌは風で、ヴァランは重力だと?
しまった。打ち合わせ不足だ。
最大攻撃と見越して、それぞれ得意属性を使用。
お互い干渉して威力が減衰してしまった。
「うわ、ごめん姉上!」
「エンヌ、そっち得意だっけ!?」
「ななな、何たる……何たる!」
「ああーん、お待ちになってー!」
機動兵器、包囲を突破。
そのまま飛翔して銃撃を見舞って来る。
急造パーティ。連携が取れていない。
ツーマンセルもよく分かっておらずか。
イェルマグ以外はバラバラに散開した。
回避出来ているだけ、まだマシだけれども。
「ああっ、くそ!」
イェルマイン、狙撃。愛銃ドラグノフ。
燃料気化爆発魔法付与、セミオート。
掠ったか爆発。機動兵器は銃を取り落とした。
代わりに抜いてくるのは……レーザーブレード?
光剣を構える機動兵器。奴の狙いはエンヌだろうか。
開けた場所で転倒。あれでは格好の標的だ。
エンヌ。エンヌ、落ち着け。脱出を。
エンヌが掲げるのは、ビリビリに破れたスクロール片。
帰還スクロール破れちゃったの!?
どうしよう、という泣きそうな顔のエンヌ。
取り乱していて防げるかどうか。
しかし駆け付けようにも距離がある。
ああ、もう……俺が奴に一発くれてやる。
隙を見て逃げろ。這ってでも何でも。
効けば良し。効かなくとも注意を引ければ。
理論もあやふやだが、取って置きの構築に掛かる。
重力、崩壊、空間、爆縮、電磁加速、共鳴振動。
……ん? 何だ? 脳内ウインドウに警告表示。
『発動するにはMPが足りません。
(必要MP:現在値+約12500%)
生命力を代償に発動しますか?』
何だって? 魔法力が足りない?
しかし生命を犠牲にすれば発動自体は叶う?
イエス、ノー……イエスで。
『生命を失う恐れがあります。
それでも発動しますか?』
良いってば。どうせ神人だ。復活する。
魔人でも唯人のエンヌを失う方が後味が悪い。
『死亡時の代償としてレベルダウンが』
『レベルが不足した場合、スキルポイントの減少』
『復活時、パラメータに重篤なデバフ』
ええい、やかましい。
おせっかいな警告ウインドウめ。
表示キャンセル。キャンセルだ。
繰り返される警告文を読み飛ばす。
時間が無い。とっとと発動しろ。
警告が出るんだから、レシピは合っているだろう。
迫る機動兵器に両手をかざす。
重力、崩壊、空間、爆縮、電磁加速、共鳴振動。
縮退魔法発動。マイクロブラックホール!
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