黒鷲の旅団 >15日目(10)暗緑の先、赤銅の鱗


黒鷲の旅団
15日目(10)暗緑の先、赤銅の鱗

「ああー、やっぱ馬ちゃんはダメか」
「荷台だけでも無事で良かったですよ」

 馬車を回収して帰途に就く。
 元の荷馬は巻き添えで死んでしまった様だ。
 イェルマグ隊の生き残った馬を2頭借りて繋ぐ。
 死んだ馬ちゃんは土魔法で埋葬だ。

 魔人姉妹が護衛についてくれる様なので、編成。
 前衛に魔人姉妹、後ろにイェルマグ隊、馬車と続く。
 馬車の両側面に花人2小隊。
 後方にはアンヌと子供達4小隊を配置。
 まずは昨日の戦場、公主達の向かう辺りを目指す。

「高名な黒鷲殿より同行を許されるとは、類稀なる栄誉。
 我、鼻孔より出血に至らんとも奇異に非ずや」

 何だか小難しい言い回しをするヴァランさんだが。
『鼻血モノ』をそんな風に表現する人は初めてだよ……

 俺はどうも身体が怠い。
 デバフ、死亡ペナルティの一部だろう。
 馬車で休ませてもらう。

 御者はハミルトン爺さん。
 クレールは爺さんの補佐兼伝令役。
 後方、子供達との窓口はマイナさんに頼む。

 馬車に身を横たえ、今日の戦いを反省。
 打ち合わせ不足。これに尽きるな。

 俺は……気が急いていたんだろうか。
 助かったとはいえ、真っ二つにされたカトレアンナ。
 仕返しをしたかった、か。
 あるいは、罪の意識を消したかっただけか。

 無意識下にでも、冷静でない部分がある。
 個人の特性は簡単には変えられない。
 やはり俺には参謀役が必要だろう。
 しかし、サンドラちゃんを前線に出すワケにも行かん。
 結局、解決策はレベル上げ一択なのだろうか。

 それと縮退魔法。威力もだが消費が凄過ぎる。
 魔力不足を生命力で補える。
 死ぬとレベルダウン。レベル0以下で消滅。
 この条件下では唯の自爆技だ。

 レベルが126下がって119上がった?
 レベルが0以下になると消滅する?

 見せてやれないので伝授も難しい。
 どうやって特許を取ったモンだか。
 広めて良い魔法でもないとは思うのだが。

 ま、反省はその辺で。一旦、状況確認する。
 探知、空間把握……解析。

 後方はツェンタが隊から離れている。
 通信。ティルア、見に行ってやってくれ。

『あっ、ホントだ! ツェンタ、何やってんの〜?』
『見てよ、コレ。何だろう。箱?』

 ツェンタが何か見つけた様だ。
 遠見……ツェンタ、触るな。ストップ。

 進軍停止。俺は馬車を降りて駆け付ける。
 ツェンタが見つけたのは、熱を持った黒いキューブ。
 恐らく、機動兵器の残骸か何かだろう。

「え、え……これ……?」

 ツェンタ、解析魔法は覚えてたか? まだか。
 ティルアが持ってる。試してみてくれ。

「えーとー……アナライズっ!
 あっ、こいつ、爆発する罠だ!」

 ……正解。

 機動兵器。この世界では古代文明の遺産だったか。
 機密保持がしっかりしている。
 罠を解除出来るかどうか。
 爆発した場合、中身が残るか分からん。

 子供達を避難させる。
 拾った石に解錠魔法付与、投擲。
 と、案の定だが爆発した。

 中に残った物は……何かの球体。
 解析、鑑定。『オートマタ―の核』だと。
 オートマタ―、自動人形の大元。
 ゴーレムの心臓部、魔法世界のAI基部みたいな。

 俺には使い方が分からん。
 持って帰って魔女達に見て貰おう。

「ご、ごめん……」

 ツェンタ、謝る必要はない。
 貴重品らしいし、危険物を放置も怖い。
 斥候担当も始めたばかり。
 力不足はこれから補って行けばいい。

 さて、気を取り直して進軍再開。
 妙に暗くなって来た。
 まだ昼ぐらいだと思ったんだが。
 子供達も不安げに辺りを見回して……

「すんすん。何だろう。焦げ臭い?」
「ああっ、あれだ! 燃えてない?」

 イェンナが指差した先。
 森の上に火の手が上がっている。
 森林火災……いや。違う。

 燃える森の中に大きな影。
 火に照らされて煌いている。

 あれは……ドラゴンだろうか。
 赤銅色、金属質な鱗を持ったドラゴンが居る。

 まったく、次から次へと……



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