黒鷲の旅団
15日目(11)人の欲、竜の怒り
「街に向かってる? 街に向かってない?」
「え、え……どうしよう。どうしたらいい?」
木々を薙ぎ倒し、ドラゴンが進んでいく。
狼狽える子供達だが、俺も正直、良案が浮かばない。
その巨体、100mを裕に超える。
炎に煌く鱗も、厚く堅そうだ。
加えて、時折吐き出す火炎ブレス。
木々が燃えて、近寄っただけで火傷しそうだ。
「あいつ……怒ってる。泣いてる?」
「ホントだ。何でだろう」
ライフルのスコープを覗くルーシャとユッタ。
ドラゴンの探知反応は……黄色。
少なくとも、俺に対しては中立だと。
なるほど、情報だ。もっと情報が要る。
ドラゴンは今の所、こちらには注意を向けていない。
目的が分かれば、倒せずとも注意は反らせるかも。
進路を変え、開けた丘の上へ。
ティルアとノイエが変身、翼を広げた。
イェンナとカリマを抱えて、上空からドラゴンを監視。
残る者は周辺警戒。探知魔法を厳に。
焼け出されて魔物が飛び出して来るかも知れない。
森の方角からキマイラ2頭。排除。
右後方からサイクロプス少々。排除だ。
次、緑反応3つ。市民、旅人……違った。
「待って待って! 撃たないでー!」
「あれっ、ヘビの姉ちゃんだ!」
飛び出して来たのは蛇女、ラミアが3人。
髪型が変わっていて分かり難いものの。
しかし、見た様な柄のヘビ尻尾が1人。
洞窟に捕まっていた、ついでに助けたラミアだろう。
名前はルミリナ。あとの2人はラーナとノルガと名乗る。
炎で住処を焼き出され、避難中の様だ。
状況について聞く。
あのドラゴンについて何か分かるか。
「勇者! 人間の勇者が来た!」
「火竜怒ってる。勇者が何かした。多分」
事情は分かっとらん様子だが。
しかし、人間の勇者、冒険者か何かが関与している?
イェンナとカリマに通信。
火竜の周りに誰か見えないか。
『誰かって……居た! 何か居る!』
『冒険者かな。何か持ってる…………タマゴ?』
方位を教えて貰って、遠見魔法。
なるほど、火竜の進路上。冒険者らしい武装集団が居る。
6人パーティで、戦士っぽい2人が球体を抱えている。
火竜に追われている、様にも見えるが。
解析……タマゴはちょっと届かない。
冒険者ギルドに確認を取りたい。
火竜のタマゴを持って来る、なんて依頼は出ているか?
魔女協会に通信、居合わせたチェチーリアに向かって貰う。
その間に、公主……連絡つかず。
魔王バティスタン軍の残党に当たった様だ。
騎士団長やランスロット達が出張っている。
戦力的には負けていないが、時間が掛かるか。
『黒鷲さーん!』
チェチーリアから返答。早かったな。
ギルドにも通信魔法の使い手が居るらしい。
タマゴ採集の依頼は出ている……いるのか。
貴族の好事家の依頼で、報酬は1個500万。
請けた奴が火竜を引き連れたまま、街へ向かって……
と、ギルドも状況は把握しているらしい。
討伐隊の編成と、懲罰の検討が行われている。
いっそ懲罰隊でも編成してはどうだろう。
間抜け冒険者をシバいてタマゴ返させるとか。
『それ面白いっすけど、ギルド的にはどうだろ。
依頼に貴族の後ろ盾があって、棄却できないとかって』
チェチーリアの状況説明。
何かと板挟みだな、支部長……
整腸魔法とか、作ってやった方が良いだろうか。
街を守らなければならない。
タマゴは諦められない。
で、火竜を討伐しなきゃならない?
ただ、なあ……俺は気が進まない。
火竜を俺に、タマゴを子供らに重ねてしまう。
火竜が街に突っ込んでも、確かに困るんだけれども。
ギルドは依頼を取り消せない、として。
冒険者の側が依頼に失敗するなら、アリか。
タマゴを抱えた連中に接触してみよう。
騎兵隊に馬を借りる。
俺とイェルマグ兄妹、ノインテリア。
アンヌ、ディエナの6人で行こう。
残りの者は丘の上に陣地構築。
焼け出されて来る魔獣は撃退するとして。
半魔や半獣人なら、投降する奴は助けよう。
ラミアのルミリナさん、橋渡し役を頼めるか。
それじゃあ、ちょっと行って来るぞ。
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