黒鷲の旅団
15日目(12)火竜、のーせんきゅー
「は? 邪魔なんだけど」
「は、じゃないわよ。コイツ、生意気〜」
火竜に追われる冒険者に、馬で追いついて。
足止めをするアンヌ。喧嘩しない。
急いでるトコ悪いが、状況を聞きたい。
「どけよオッサン。やっちまうぞコラ」
「ふうーん? そんな元気なら、あたしが相手しよっか?」
「よしなって! この人達、勝てる相手じゃないよ!」
パーティの女魔術師が解析魔法。
レベル差に気付いたらしく、食って掛かる男に説明。
男は震え上がって後ろに引っ込んだ。
逃げて来た冒険者は、神人の一行。
騎士スティグマイト氏と、その仲間達。
レベルは2ケタ終盤。100弱といった所。
俺より上だが、アンヌ達は3ケタ後半だからな。
えー……それで、クエストか。タマゴの奪取だと。
倒すには戦力が足りず、しかし報酬は莫大。
盗んで逃げるだけならばと、請けてみた様子。
逃げるだけ……に、なってないな。
巣を離れない習性も、そこにタマゴがあればこそ。
タマゴを追い掛けて来る火竜には、目下つける薬が無い。
神人、唯人を問わず、巻き込まれれば被害も出るだろう。
MPKなんて悪評が立つとも分からん。
「は? MPKとか無ぇし」
「いや、一理ある。災害級の怪物を連れ歩いてるんだ」
「これで治安値が下がったら、公主様に睨まれるかね」
血気盛んな魔法剣士を、騎士とレンジャーの男が諫める。
騎士スティグマイト……印象は控えめな。
魔法剣士の方が気が強そうだが、制御出来ているのだろうか。
「あ、あの……もしかして、霧霜卿ですか?
魔法機関の広報見てます! 」
「称号持ちか! 頼もしい。
どうだろう、火竜退治。退治しなくても良い。
足止めだけでも手を貸してくれないか」
女魔術師ディアラディア、女サムライのエトワールから。
いや俺、有名人っても、レベル36だからな?
それに延命処置は上手くても、蘇生は難しい。
アレ相手じゃ、何回死ぬやら……
と、振り返る間に、森を焼く火の手が強まっている。
炎の奥にゆらめく巨体。火竜、レッドドラゴン。
改めて解析。そのレベルは2千強。
「旦那、ありゃあいけねぇ!」
「ちょっと手に負えませんわー」
イェルマインとディエナが合流。
チョッカイ出しに行ったが、相手にされずか。
生体系モンスター。レベル差が攻防に直結する。
素材が決まってた機動兵器より硬いかも分からん。
逆に提案なんだが、タマゴを放棄するワケには行かないか。
信用に関わるのでダメだ、と魔法剣士シースパロー。
血の気が多くても、何も考えてないワケじゃないらしい。
火炎ブレスの熱風が迫る。
反射魔法……あちち。ダメか。
障壁魔法、なら効果があった。
対処を間違えると死ぬな、これ。
「なあ、頼むよ。手を貸してくれ。
やっぱ俺達だけじゃ厳しいんだ」
「火竜を倒せば、ドラゴンスレイヤーの称号も得られる。
逆鱗を貫く手段さえあれば、一発逆転も可能かと。
挑戦する価値はあると思うのですが、如何でしょう。
高レベルの従者だけでも貸して頂けたら」
レンジャーのドーンマイヤー、女司祭プリマヴェーラ。
従者……表向き身分を隠しているディエナさんはともかく。
アンヌに何かあっては外交問題。気軽に貸せるものではない。
しかし、どうする。馬を譲って、こいつらだけ逃がすか。
火竜の目的がこいつらなら、離れれば俺達に被害は無い。
だが、このまま街まで追いかけっこが継続した場合。
街に甚大な被害が出る事も、想像に難くない。
もし、俺達が事態を収拾させるなら。
火竜を倒すより、こいつらを倒してタマゴを返す方が早い。
とは言え、相手は神人。殺しても生き返る。
遺恨になった場合、レベルは格上だ。
後々、子供達を危険に晒す事になる。
栄誉は別に要らん。そもそも火竜を刺激したくない。
倒し切らんだろうし、レベルも下がったばかり。
睨まれてリスクを負う価値は、果たして……
地響き。長考している猶予は無いか。
俺達の馬を冒険者チームに貸す。
街へ戻ったら、討伐隊を急がせてくれ。
俺達は丘の上に戻って子供達と合流。
火炎ブレスの範囲外から、射撃、遅滞戦闘を行う。
なるべく行かせない様に、しかし睨まれない程度に。
親代わり、父親役として、タマゴと火竜に思う所はあるが。
こうも災害が広がった以上、世論は退治する方向に向かう。
手放しで火竜に味方してやるのは難しい、のみならず。
参戦しない事で睨まれても、後々面倒を呼ぶ可能性がある。
どちらを取ってもモヤモヤだ。上手くないな、くそ。
公主様に通信。ぼちぼち落ち着いたか。
火竜が街に向かってる。迎撃の準備を。
『火竜!? みんな、火竜だって!
いよっしゃあ、レアドロップのチャンス!
レイドやるよ、レイド! 燃えて来たぁー!』
公主様にとっては、火竜は身の程に合った相手らしい。
そりゃ良かった。頼りにさせて貰おう。
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