黒鷲の旅団
15日目(13)煩悶の遅滞戦闘
「おっひさー♪ 元気してるぅ?」
丘に戻ると、いつぞやの蜘蛛女、アラクネさん。
アラクネ族のネーラさんだそうで。やはり避難中。
他に避難者、投降者は居たか?
リザードマンのライナスとレナード。
ハーピーのロヴィリス、セレスタ、イスメーネ。
あとトレントだのコロボックルだのが細々と。
それぞれ住処は違うが、広域森林火災に焼き出された。
勇者の狼藉、タマゴ強奪に大変迷惑している。
人間を代表して謝罪を、なんて身分でもないが。
せめて安全と食料の確保、負傷者の治療は引き受けよう。
人間は信用ならない、といった意見も出るかと思ったのだが。
先に花人達が話を通してくれた様だ。
それぞれ不承不承もあるが、誘導には従ってくれる様子。
「で、で? どうなったの火竜?」
トゥーリカが俺の顔の周りを飛び回る。
落ち着いて。説明するから。
火竜について、タマゴの奪還は出来なかった。
しかし放っておくと、火竜が街に突っ込んでしまう。
ギルドや国軍が討伐隊を結成中。
到着まで、俺達は火竜の足止めに掛かろう。
「火竜さん、殺しちゃうの?」
「えー、可哀想だよー」
「ドラゴンのパパさん……」
マリナ、アイリス、カリマ。
いや、ママさんかも分からんけれども。
話が広まって、それぞれ悲しそうな顔をする子供達。
そんな顔をさせたくなかったんだが、仕方ない。
街で待ってる女将や魔女さん達も守ってやらないと。
参戦は強制しない。俺だけでも。
と、みんな揃って武器を手に取る。
俺がやるなら断れないか。何か、ごめんな。
測量魔法バリスティクス展開。
視界に弾道が光るラインで表示される。
みんなにも見えてるか?
弓に力を込め、銃口を上に向ければ弾道が伸びる。
カーチャとノイエ、試しているのか小銃をぐりんぐりん。
ぐりんぐりん、ぱすん。おーい、まだ撃つなー?
効いてないから良い様な物の。
効いてない。そう、とても倒せない。
目的は足止めだ。遅延や凍結の魔法を付与して撃つ。
怒って振り返るなら攻撃中止だ。
防御しつつ隠密。気が逸れるのを待つ。
それと、炎には反射より障壁魔法。覚えておく様に。
あと何か気になる事は……ペトリナちゃん。
「あっ、あのっ、ちょっと足りないかも」
ペトリナ、クロスボウを上下させて難しい顔。
ああ、すまん、俺も気付いた。
レーネのヘヴィクロスボウは例外的。
普通のクロスボウでは上に向けても飛距離が足りない。
そこで電磁加速魔法エレクトリープを展開。
銃口、矢の軌道上に光る輪が現れる。
原理の説明は省くが、この輪を通せば飛距離が増す。
「最初、凍結? 遅延?」
「遅延魔法なら私も出来るよー」
「デンジなんとか、こっちにもくださーい!」
「街を守る、街を守るぅ〜……よしっ!」
装備と決意を戦闘準備。
それぞれに準備を整えて……整ったか?
それでは一斉射から始めよう。
遅延魔法付与、斉射。火竜は意にも介さず。
耐性が高いのか、遅延もあまり効かないか。
次、火竜に当てるな。前方の足場を悪くする。
水脈、崩壊、毒魔法付与。一斉射。
火竜の鼻先に毒の湿地帯を広げる。
火竜、ずるりと滑って毒沼に踏み込んだ。
誰かが息をのむ音。もう気の毒で仕方がない。
しかし火竜、我が身より卵が惜しい。
毒ダメージも構わず突っ切る様子。
怒れる火炎ブレスは、沼地をみるみる干上がらせる。
干上がって……その分、湿度は下がっているハズだ。
次は蒸気、霧霜、凍結魔法付与。斉射。
火竜はブレスを吐いて、張り付く霜を薙ぎ払う。
薙ぎ払う程度には鬱陶しいのだろう。
と、意識された。こっちを睨んで来る。
忘却、幻覚、陶酔魔法付与。今度は当てる斉射。
火竜は一瞬、怒りを忘れ……
しかし大事なタマゴは忘れない。進軍再開。
潮時か。身の丈に合った相手でもなく、そろそろ射程外だ。
火竜は一旦諦めて、次は燃える森、延焼を防ごう。
「居た居た! いよぉー、大将〜!」
「花人は遠くからでも目立って良いな!」
後方からパラディオン、ランスロットの声。
公主麾下の冒険者隊が到着か。
俺達を追い越す形で火竜へ向かって行く。
公主、イーディス公主は居るか。
馬で寄って来る所に神銀槍を投げ渡す。
「おっ、何、くれるの?
さんきゅー。後でお礼するねー」
レア度とか、あまり気付いてない様子だったが。
まあ、話は後でだな。
霧霜魔法付与。燃える森へ斉射を続けよう。
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